スマート製造を推進する技術としてエッジAIが注目されています。SEMIはこの技術の将来を議論するワークショップ「Smarter Sensors, Smarter Fabs: AI at the Edge in Semiconductor Manufacturing」を、3月18日〜19日の2日間にわたりカリフォルニア州ミルピタスで開催しました。本ワークショップでは業界の専門家が一堂に会し、AI搭載センサーやエッジインテリジェンスによって実現される、次世代の半導体製造を支えるスケーラブルでレジリエントなソリューションについて議論がされました。
本ワークショップは、プロセス制御、歩留まり向上、設備連携、予知保全のユースケースを取り上げた4つのセッションで構成され、またLam ResearchおよびKUKAのリーダーによる基調講演も行われました。
参加ができなかった方向けに、オンデマンド配信も提供されています。配信はどなたでも視聴できます。SEMI会員の場合は無料です。
セッション1:先進プロセス制御のためのスマートセンサーとエッジインテリジェンス
半導体産業は常に高い精度が求められてきました。しかしデバイスの微細化がオングストローム領域に達し、ウェーハがさらに薄く脆くなる中で、従来のプロセス制御ツールでは限界が見えてきました。これまでの断続的なサンプリングに基づく、低頻度・単一指標のモニタリングシステムは、偏差が目視可能で、不具合に後から対処することができ、少数のセンサーで十分に歩留まりを維持できた時代に設計されたものです。
本セッションでは、最新のセンサー技術が取り上げられ、装置に直接組み込まれたAIによって、生産時点(POP)のリアルタイムデータを取得することが成功の鍵となることが議論されました。その具体例として、先進的なin-situセンサーが紹介されました。このようなセンサーは従来よりも豊富な信号を生成しますが、低レイテンシーを実現するためにはエッジにおけるAI推論が不可欠です。
さらにAIは、自律的に作業するロボットとして、フィジカル空間にも拡張しています。これらのロボットは、デジタルツインが提供するシミュレーション環境において、ファブ導入前に学習・検証を行うことで実現されます。
本セッションを通じた共通テーマは、ファブにおいて重要性が高まっているデータと知識の統合です。スマートセンサーは、AIシステムに組み込まれる必要があり、そのシステムは、スピードと信頼性を損なうことなく、装置間でスケーラブルに展開できることが求められます。最終的に、そこから得られるインサイトは、保守の最適化や装置の健全性管理へとフィードバックされ、継続的な学習サイクルを形成します。
セッション2:エッジ主導の欠陥検出・分類による歩留まり向上
本セッションでは、エッジAI、プロセスセンサー、画像データを活用し、製造プロセスの早い段階で歩留まりに影響を与える欠陥を検出する手法に焦点があてられました。半導体デバイスが3Dアーキテクチャに移行するにつれて、データの量と複雑性は従来の監視ツールの能力を超えて増大しています。現在のファブでは、1時間あたり数テラバイトに及ぶ画像データの評価が求められ、また、装置のセンサーのトレースデータについても、数十のパラメータを同時に解析する必要があります。
各講演者はこの課題に対して異なるアプローチを提示しましたが、それらのソリューションは相互に補完し合い、一貫したアーキテクチャとして整理されました。そのうちの一つは、予測と不確実性を同時に評価するガウス過程回帰を導入するもので、装置のセンサー信号の理想的な挙動をベースラインとして学習する統計的に厳密かつデータ効率の高い手法となります。これにより、標準的な異常検知を超えた実用的なスコアリングや保全指針の導出が可能となります。
別の講演者は、深層学習モデルにより、毎秒数ギガビットの画像データをミリ秒単位でトリアージ(優先度付け)できることを示しました。AIベースの欠陥分類により、根本原因分析に要する時間は数日から数時間へと短縮され、ダイ歩留まりを0.3%改善し、0.5〜1%の歩留まり損失の防止が実証されています。ささらに、RFフィルタの周波数特性に関する予測計測では、上流工程のプロセスデータを用いてデバイス性能を評価することが可能となり、誤差は0.02%未満に抑えられることが示されました。
最後に、オープン標準およびベンダーニュートラルなアーキテクチャに基づくソフトウェア定義の自動化フレームワークが紹介されました。このフレームワークは、単一のエッジプラットフォーム上にワークロードを統合することで、既存インフラを置き換えることなくファブ全体へスケーラブルに展開可能であることが示されました。
これらの講演を通じて強調されたのは、装置レベルでのリアルタイムな計測とアクションの重要性です。できる限り早い段階でデータを取得し、AIによってトリアージおよび分類を行い、その結果をプロセス制御や保全のワークフローへフィードバックすることで、継続的な改善サイクルが実現されます。
セッション3:工程間搬送の自律化 ― ロボット・センサー・エッジAIの連携
ライトアウト(完全無人)工場は、理想から具体的な実装に向けたエンジニアリング課題へと移行しつつあります。本セッションではその実現に向けて、人手に依存したワークフローを、リアルタイムに動作するAIシステムによって補完・置き換えていく重要性が強調されました。その鍵となるのは、深層強化学習とAIベースの認識技術を組み合わせたアプローチです。
現在、深層強化学習は、歩留まり、装置効率、サイクルタイム、キュータイム遵守を最適化する搬送ルートの発見に活用されています。これには、先進パッケージングにおける前工程・後工程間の連携最適化も含まれます。また、AI認識技術は、出荷前の目視検査チェックリストに代わる手段として導入が進んでおり、検査時間を最大78%削減できることが示されています。
こうした高度化を支える基盤として、プライベート5Gネットワークの活用が提案されました。プライベート5Gは、これまでリアルタイムな機械データ通信やロボット連携を阻害してきた通信の死角や帯域制限の課題を解消し、そのポテンシャルを最大限に引き出す役割を果たします。
以上の講演から導かれる重要なポイントは、あらゆるレイヤーにおけるインテリジェンスの統合です。すなわち、手動の設定や測定を不要にする高精度なin-situセンシング、取得したデータに即時対応するエッジAI、装置間の連携を自律的に制御するプラットフォーム、そしてそれらを支える信頼性の高い通信基盤を一体として構築することが求められます。
セッション4:エッジにおける予知保全 ― 振動からビジョンまで
半導体ファブは長年にわたり、突発的なトラブル対応を余儀なくされてきました。ファブマネージャーは、その時間の40〜70%を想定外の装置不具合への対応に費やしており、計画的な保全活動に十分な時間を割けていないのが実情です。半導体製造における計画外停止は、1時間あたり最大100万ドルもの損失をもたらす可能性がありますが、保全の現場はいまだに事後対応から脱却できていません。そのため、問題をより迅速に特定し、ウェーハ損失が発生する前に対応することが強く求められています。
本セッションでは、この変革を実現するためのフレームワークが提示されました。その基盤となるのは、振動、音響、温度、スペクトル、ビジョンといったスマートセンサーです。これらは高精度でマルチモーダルなデータストリームを生成し、予測モデルの構築を可能にします。さらに、「ウルトラエッジ」AIアクセラレータの登場により、機械学習の推論をクラウドに依存することなく、MEMSセンサー内部やデバイス上で直接実行できるようになっています。ファブに求められるのは、低レイテンシーかつデータ主権を確保したリアルタイム意思決定であり、その実現にはセンシング、エッジ推論、健全性評価、保全計画を統合した一連のプロセスが不可欠です。
また本セッションでは、単なる統計的相関に依存したAIでは、無関係な相関や交絡要因の影響を受けやすく、根本原因分析には不十分であることが指摘されました。そのため、実際の意思決定に活用可能なインサイトを得るには、因果関係を捉えるAI(Causal AI)が必要であると結論づけられました。さらに、サイバーセキュリティへの懸念やクラウドインフラコストの高騰(データセンター向けGPUの価格は2025〜2026年にかけて2.5万〜5万ドルに達する見込み)、およびレイテンシー要件を踏まえると、分散型で装置に近い場所に配置された知能(エッジインテリジェンス)が、自律化されたファブを実現する唯一の現実的なアプローチであることが強調されました。
まとめ
本ワークショップでは、エッジAI、スマートセンサー、高度な通信技術が、リアルタイム制御、迅速な欠陥検出、自律化を通じて半導体製造を変革していることが示されました。特に、データ発生源でAIを活用することが、歩留まり向上、ダウンタイム削減、そしてスケーラブルで強靭なスマートファブの実現に不可欠であるという点が強調されました。
本ワークショップの詳細については、オンデマンド登録、またはLinkedInのダイジェスト動画をご覧ください。
Anshu Bahadurはスマート製造イニシアチブの責任者、Karim SomaniはFab Owners Alliance(FOA)の責任者、Paul CareyはMEMS and Sensors Industry Group(MSIG)の責任者を務めています。