業界でエグゼクティブ・アドバイザーとして活動するJeff Lewis氏は、初期のIP開発企業の一つであるArtisan Componentsのマーケティングおよび事業開発担当副社長でした。1996年から2000年までArtisanに勤務したLewis氏は、今日74億8000万ドルと推定されるIP市場を構築したエリートグループの一員でした。Artisan Componentsは、2004年に9億1300万ドルでArmに買収されました。
SEMIの技術コミュニティESD Allianceのエグゼクティブ・ディレクターであり、IPを含む四半期ごとのElectronic Design Market Data(EDMD)レポートの発行者でもある私から、Lewis氏にIP黎明期の思い出をお聞きましました。
Smith:あなたはIP革命の一員でした。最高の時、最悪の時として印象に残っていることは何ですか。
Lewis氏:最高だったのは、ほとんど白紙の状態からイノベーションを起こしたことです。うまくいくこともあれば、うまくいかないこともありました。数多くの失敗と成功を繰り返しながら、何がうまくいくかを見つけていたのです。新しい産業に最初から参加するチャンスでした。
もうひとつ、この黎明期の業界が大産業に成長するのを見届けられたのも最高でした。1990年代のEDAC(ESD Allianceの前身)は、IPに関心がありませんでした。IP市場が成長し始めると、EDACの態度は一転しました。これを加えることでEDAの産業規模が拡大するからです。突然、IPは人々が関心を寄せるにたる大産業となったのです。
もちろん、Arm、Rambus、Artisanなど、IPライセンスで成功し上場した企業もありました。その一員であることは楽しかったですね。
最悪の時には苦労させられました。私たちにとって全てが新しいことでしたが、それは取引先にとっても同様だったのです。当時は多くの人がIPを製品開発とみなしており、取引先はIPのライセンス供与に強い抵抗を示しました。彼らの望みは、コンサルティング契約やNRE契約を締結してIP企業に何らかの開発をさせ、製品とその周辺のIPのすべてを自分たちのものにすることでした。何から何まで自分のものにしたがったのです。初期には多くの企業がそのような考え方を持っており、ライセンス供与やロイヤルティの支払いに抵抗がありました。
余談ですが、2015年に亡くなったDataquest(現Gartner Group)アナリストのGary Smith氏と私は止むことのない議論を続けていました。私たちはよくランチに一緒にしましたが、そのたびに聞かされたお決まりの台詞が「IPは素晴らしいが、あなたのはIPではない。それはスタンダード・セルであり、IPではない」でした。
彼のさまざまなプレゼンテーションに私は反論しました。「セルとしてではなく、ライブラリ全体として捉えるべきです。デザイン・ビュー、レイアウト、テスト・クオリフィケーションデータ等、すべてを含むライブラリ全体として。それが知的財産なのです。開発にはたくさんのIPが投入されるのです」。最終的には、IP企業が自社開発するよりも良いものを安く提供するのを見て、考えを改めてくれました。
最後の最高の時は、取引先全社にIPの概念と価値を取引先全社に認めてもらえた時でした。
Smith:誰もがIPは本物の市場であり、IP企業は信頼できると考えるようになったのは、どの時点からですか?
Lewis氏:転換点があったかどうかはわかりません。IPがひとつの産業であるという考えに、次第に人々が慣れ始めたのです。その大きなきっかけとなったのはArmでしょう。
Artisanには2つの異なる契約モデルがありました。ひとつはIDMモデルです。2016年に亡くなったArtisanの共同創業者兼CEOのMark Templetonと、Lanza techVenturesのマネージング・パートナーでArtisan会長のLucio Lanzaが、ロイヤリティ・モデルとIPカテゴリを考案したと言われています。彼らはIDMモデルでそれを推進しました。
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| Executive Advisor Jeff Lewis |
顧客はライセンスが有料であることを承知し、その条件を理解し、この技術のライセンサーとユーザーの両方になりました。しかし、Artisanが急成長するファウンドリ領域にむけてIDMモデルを拡張し、ファウンドリ・モデルへと進んだときは、これとは異なりました。ファウンドリ・モデルでは、Artisanは自社のIPをファウンドリのすべての顧客に無料で広めることができました。しかしこれを「無料ライブラリ」と呼ぶのは誤りです。というのも、このプロセスで見落とされがちなのは、ファウンドリがひとつひとつのライブラリに対して前払いをしており、それを使用した設計に対してロイヤリティを支払っていたことです。
Artisanは初日から、ライブラリやメモリ・コンパイラを構築することで利益を得ていました。Artisanの契約モデルは、ファウンドリのユーザーにこれらをばらまくことができるというものでした。ユーザーはライブラリを入手し、ロイヤリティはファウンドリから支払われます。ユーザーは単純なライセンス契約を結ぶだけで、カスタマイズが必要でない限り、Artisanに小切手を送ることはありません。
ユーザーからすれば、それは素晴らしいことでした。無料でライブラリとIPを入手できたのですから。このおかげで、このモデルに人々の目が向けられるようになったのです。Artisanは一時1,000社のユーザーを抱え、業界におけるIP利用の普及を推進しました。
Smith:ファウンドリ・モデルは今でも使われているのですか?
Lewis氏:全体としてはそうですが、例外もあります。というのも、ファウンドリには利用可能な標準ライブラリがあるからです。また顧客がライセンス供与する特殊なIPもあります。バリエーションはありますが、ファウンドリは顧客にライブラリを提供しています。TSMCでは、エンジニアが自社プロセス用のライブラリを開発しています。長い間、Artisanはほとんどのファウンドリに対し標準IPを提供していました。
Smith:IPの検証やテストをどのように乗り越えてきたのでしょうか。エンジニアは、無名で実績のない会社からIPを購入することに懐疑的でしたか?
Lewis氏: これは重要かつ重大な質問ですね。エンジニアは、無名の会社や実績のない会社からIPを購入することに懐疑的でした。Artisanはライブラリの品質が最大のセールスポイントでしたし、ArmやRambusも同じでした。しかし、規模と評判は大きなアドバンテージでした。
重要なのは、自社の誠実さを示す大きな成功を収めることです。Artisanの初期の最大の成功は、ソニー プレイステーションの仕事でした。当時、LSI Logicがプレイステーション用のチップを開発していましたが、埋め込みSRAMなど、重要なブロックの一部をアウトソースしようとしていました。チップの命運が小さなIP企業次第となることに、ソニーのエンジニアは神経質になり、IP企業に会って何をやっているのか知ろうとしました。Artisanは、既存のLSI SRAMに代わる高性能の埋め込みSRAMを開発しました。そのメモリは、LSI SRAMの半分ほどの大きさで、より高性能で、初めから正常動作しました。
参考になるのは、Artisanが後にファウンドリとの関係を築き、ライブラリを販売した方法です。最初の成功を導いたのは、品質です。当時は、ほとんどすべてのファウンドリのライブラリにバグがあり、テープアウト後にシリコン不良を引き起こしていたのです。

ファウンドリを説得するために私たちが主張したのが、Artisanの非の打ちどころのないQAの申し立てでした。顧客からの証言によって、ファウンドリがライブラリに起因する不具合をおこさなくなることが確認できました。ファウンドリがプレイステーション向けのような大量生産を予定している場合、ライブラリのバグが原因でチップが動作せず、再設計が必要になり、生産スケジュールが狂うことは許されません。
だからこそ、TSMCにとって品質と初回から成功することが非常に重要だったのです。
品質に関してもう一つ、Artisanを含むほとんどのIP企業に関連することがあります。大量普及製品に重点を置く企業は、製品に品質上の問題がないことを確実にしなければなければなりません。エンジニアが常にサポートなく使用できるようして、可能な限りユーザーとのコンタクトを不要にする必要があります。大量流通の前提として、品質は絶対的な基本です。企業倒産への一番の近道は、欠陥のある製品を大量普及させることだからです。
Smith:ESD Allianceが集計する電子市場設計データレポートによると、2年前からIPがフロントエンドEDAツールを上回る最も売り上げの大きなカテゴリになりました。チップレットの形をとったIPが支配的なプレイヤーとなりうる世界へシフトしているのでしょうか?
Lewis氏:シフトは起こりつつあると思います。ムーアの法則とカーバー・ミード構造のVLSIは複数の姿で生まれ変わります。チップレットになることもあれば、埋め込まれることもあります。
エンジニアは、埋め込むか、あるいは分離した形をたもつのか、そのプラスとマイナスを秤にかけます。決め手となるのは、どのシリコン・プロセスが最適であるか、また、どのように実装するかです。

The SEMI EDMD report’s tracking of the Semiconductor Intellectual Property (SIP) and its rise to one of the market’s leading category.
Smith:プロセス関連のIPを提供するIP企業数社にも在籍されましたが、市場販売サイクルはまったく異なると考えてよいですか。
Lewis氏:そうです。そこで注力していた製造プロセスの技術ライセンスは、既存の製造プロセスに合わせて開発された設計IPのようには受け入れられていませんでした。企業の製造プロセスに組み込んでもらうのは、はるかに困難で挑戦的なことでした。
ライセンスする技術が前工程を変更するものであった場合、プロセスパラメータはおそらく良い方向に変わるでしょう。再最適化はモグラたたきのようなものです。何かのパラメータを改善すると、別のパラメータが悪化し、さらなる再最適化が必要になるかもしれません。このサイクルをプロセスが収束するまで何度か繰り返す必要があります。これはまた、既存のすべてのIPの特性を評価しなおし、あるいは再設計する必要があることを意味します。ですから、新しいテクノロジを組み込むのは、後付ではなく、新たなノード開発の初期段階で行うのが最善なのです。
新しいプロセス技術を追加することは、それが分離可能でない限り本質的に困難です。例えば、ReRAMやMRAMのような多くの新しいメモリはライセンス技術ですが、金属スタック内に配置されるので分離可能です。トランジスタには触れません。
すでに長い間、企業は設計を自社開発するか、サードパーティのIPを調達するかという選択をしてきました。プロセス開発でも同じことが起こり始めています。プロセス開発は非常に複雑化しており、すべての分野のエキスパートになることは不可能だからです。プロセスIPは、黎明期の設計IPと30年遅れで並行していると私は考えています。当時、ほとんどの顧客は「すべて社内でできる」と考え、設計IPの調達に消極的でした。現在、そのようなことを言う人はほとんどいません。このように徐々に受け入れられていくことは、プロセスIPにも当てはまると思います。
Smith:Mark Templeton氏はIP業界の革新者であり、創造者であるとみなすべきでしょうか?
Lewis氏:彼については、すでに言われていること以外で私が言えることは何もありません。彼は偉大な人物で、重要な思想家でした。彼が会社を成功させるために素晴らしい仕事をしたと評価しています。もちろん、Lucio Lanzaの存在も大きかったです。彼がArtisanにロイヤリティを導入するよう働きかけ、Markはそれを実現させる手助けをしました。
Jeff Lewis氏について
Jeff Lewis氏は半導体IP業界のパイオニアの一人で、1990年代半ばの発足当初から業界に携わっています。現在は半導体およびAI企業の経営幹部や投資家のエグゼクティブ・アドバイザーを務めています。以前は、Atomera Incorporated、Spin Transfer Technologies、SuVolta Inc.、Innovative Silicon Technologiesで事業開発およびマーケティング担当上級副社長を務めたほか、Synopsys、VLSI Technology、HPで事業責任者を歴任しました。カリフォルニア大学バークレー校ハースビジネススクールでMBAを取得し、カリフォルニア大学バークレー校で電気工学の学士号と経済学の学士号を取得しています。
Robert(Bob)・Smithは、SEMI技術コミュニティであるESD Allianceのエグゼクティブ・ディレクターです。
