人工知能(AI)ワークロードが急増し、ハイパースケールデータセンターの拡大が進む中、半導体業界は電気信号によるインターコネクトの根本的な限界に直面しています。こうした状況の中で、Co-Packaged Optics(CPO)* が重要なアーキテクチャ上の変革として台頭しており、プロセッサ近傍に光接続を配置することで、次世代システムが求める帯域幅、低遅延、高エネルギー効率を実現しようとしています。集積フォトニクスの戦略的価値は広く認識されていますが、その技術を研究開発レベルから量産化へ移行することは、業界における最も差し迫った未解決課題の一つとなっています。
*光学部品と半導体チップをひとつのパッケージに組み込み、光をデータ送受信に使うことで、データ転送速度の向上と、電力消費の削減に対応する技術。
この量産化への移行において中心となる課題は、一見すると従来の半導体製造でもなじみのあるプロセス上の考慮事項が、フォトニクスでは本質的に異なる意味を持つことです。求められる基本要件そのものはCMOS製造と共通しており、清浄度、均一性、欠陥管理が重要となります。しかし、その要求レベルや適用されるスケール、技術の成熟度には違いがあります。さらに、異種材料や新たなデバイス構造の導入に加え、光学特性に対する高い感度が重なることで、安定した高歩留まり生産を実現するために解決すべき課題は一層複雑になっています。
拡大するウェットプロセスの役割
ウェットプロセスは、フォトニックデバイスの製造において、洗浄、エッチング、乾燥といった重要ステップで中心的な役割を担っています。これらのステップは、表面品質や欠陥密度、さらには最終的な光学性能にも直接影響します。なかでも重要となるのが次の事項です。
- エッチングの均一性:光路の均一性を維持し、信号損失を最小限に抑えるために不可欠
- パーティクル管理:微小な異物であっても光散乱を引き起こし性能劣化につながる
- 乾燥プロセス:残留物やウォーターマーク、接触に起因する欠陥が歩留まりや信頼性に影響する
特に乾燥プロセスは、大きな技術課題の一つとして浮上しています。窒素ブロー乾燥やIPA蒸気乾燥といった手法は、残留痕や汚染の問題に対応するため改良が進められています。さらに、パーティクル除去性能や表面品質を一段と向上させる手段として、音響エネルギー(ソニックエネルギー)の活用も検討されています。
また近年では、残留物の低減とパーティクル管理性能の向上を目的に、プロセス薬液の組成や濃度をより厳密に管理することが求められています。こうした要求が高まる中、業界ではウェットプロセスを単なる補助工程ではなく、デバイス性能を左右する重要な要素として捉えるようになっています。
一方で、フォトニクス製造では、量産CMOS製造ではあまり見られないプロセスのばらつき要因があります。ウェーハサイズや材料組成、プロセスフローの違いに対応するための高い柔軟性が求められるのです。多くの場合、用途に応じてバッチ式と枚葉式のウェットプロセスが使い分けられています。装置やプロセスは、ウェーハ搬送方式や薬液供給方法、プロセスパラメータの変更によって調整する必要があります。また、一つの製造フローでより幅広い工程に対応するため、浸漬処理とスピン処理を組み合わせたハイブリッド方式を採用するケースも増えています。
量産化のための歩留まりと製造性
スループットは重要な指標ではあるものの、現時点では最大の制約要因ではありません。業界が現在最も重視しているのは、高い歩留まりと安定した性能を支える、再現性の高いプロセスの確立です。将来的には、設計の成熟と市場拡大に伴ってスループットへの要求も大幅に高まるでしょう。業界は、毎時数百枚規模のウェーハ処理能力を目標とする方向へ進みつつあります。
また、フォトニクス製造能力を既存の製造ラインへどのように組み込むかも、重要な検討課題です。一般に想像されるような設備インフラの大規模変更が必要になるとは限りません。実際には、こうした統合の課題は当初想定されたほど大きくない場合が多く、ほとんどは製造インフラそのものを改修するのではなく、限定的なエンジニアリング対応によって解決されています。このアプローチにより、既存ラインへの影響を最小限に抑えながら、新たなアプリケーション分野への展開が可能になります。
この移行プロセス全体を通じて、歩留まりは依然として最重要課題の一つです。新技術の立ち上げ段階では、製造のばらつきがコストや信頼性の課題を引き起こします。特にフォトニクスでは、複雑な材料系と厳しい性能要件のため、欠陥の修正は難しくコストも高くつくことから、再加工は極力避けなければなりません。そのため、高歩留まりを実現するには、薬液濃度の管理からパーティクル低減、表面処理に至るまで、すべてのプロセスステップで厳密な管理が求められます。
同時に、製造装置の単位製造コスト効率(COO)も慎重に管理する必要があります。フォトニクス製造はまだ最先端ロジック製造ほどの超高スループットを必要としていませんが、量産事業として成立するためには十分な経済性を確保しなければなりません。つまり業界は、歩留まりと性能を最適化すると同時に、進化し続ける設計や規格に対応できる柔軟性も維持するという、二つの課題に向き合っているのです。
サステナビリティと普及への道筋
フォトニクス製造では、サステナビリティもまた、重要性を増しています。オプトエレクトロニクスそのものはシステムレベルでの省エネルギー化に貢献しますが、その製造工程では依然として大量の水や化学薬品、エネルギー集約型プロセスが必要です。そのため業界では、CMOS製造で培われた知見を活用しながら環境負荷の低減を進めています。具体的には、代替薬品の検討や、PFAS削減・廃止に向けた取り組み、さらには環境安全に関する既存の枠組みとの整合などが進められています。
より広い視点で見ると、Co-Packaged Opticsの発展は、半導体産業において繰り返されてきたパターンを示しています。すなわち、研究室レベルの技術的ブレークスルーと量産製造との間にあるギャップをいかに埋めるかという課題です。現在も標準化は進行中であり、設計手法は進化を続けています。また、初期世代の実装方式が将来的に新しいアーキテクチャへ置き換わる可能性もあります。このような環境では、デバイス設計だけでなく製造エコシステム全体において、柔軟性と適応力が決定的に重要になります。
しかし、市場の需要は極めて明確です。AI主導によるデータセンターの拡大は、より高効率なインターコネクト技術への需要を急速に押し上げており、その需要に応える中核技術としてフォトニクスへの期待が高まっています。今後、フォトニクス製造への投資を進める半導体メーカーが増えるにつれて、業界の関心は「実現できるかどうか」から、「どれだけ確実かつ経済的に量産できるか」へと移っていくでしょう。ウェットプロセスは、しばしば補助的な工程と見なされます。しかし実際には、この変革の中核に深く関わっています。清浄度、均一性、欠陥管理への影響を通じて、フォトニックデバイスの性能と製造性を左右する重要な基盤技術となっているのです。業界がプロセスの最適化と標準化をさらに進める中、ウェットプロセス技術の進歩は、Co-Packaged Opticsがどれだけ迅速かつ効果的に主流技術へ移行するかを左右する重要な要因となるでしょう。
フォトニクス市場への参入を進めるSEMI会員企業にとって、その意味は明確です。フォトニクス製造で成功するためには、デバイスレベルのイノベーションだけでなく、それを堅牢でスケーラブルな製造プロセスへと落とし込む能力が欠かせません。そして、その取り組みにおいては、精度、制御、適応力という製造技術の基本原則が、これまで以上に重要な意味を持ち続けるのです。
著者プロフィール
Ismail Kashkoush博士は、米国アイダホ州メリディアンに本社を置くJSTの最高技術責任者(CTO)です。30年以上にわたる半導体業界での経験を有し、同社ではエンジニアリング、技術開発、製品ライン部門を統括し、次世代の持続可能な表面処理製品およびプロセスの開発を主導しています。クラークソン大学で工学博士号を取得。JST入社前はAkrion TechnologiesのCTOを務めました。多数の特許を保有しており、IC、MEMS、フラットパネルディスプレイ、太陽光発電分野向けのウェーハ表面処理技術について、技術論文やセミナー活動を継続的に行っています。