PDF Solutionsの CEO兼創立者であり、ESD Alliance(ESDA)運営評議会のメンバーでもあるJohn Kibarian氏は、半導体のエコシステムを鋭く観察します。PDF Solutionsは設計と製造の中間というポジションにあり、その両者についてユニークな見解をお聞きしました。
Smith:半導体業界にはどんなトレンドが見られますか。驚くようなものはありますか。
Kibarian氏:かなり以前から続いているトレンドがいくつかあります。
ムーアの法則は終わったと言われていますが、先端ノード開発に対する意欲はまだ旺盛です。メリットを得るのは難しくなり、微細化以上のものが要求されますが、先端ノードへの需要は伸び続けています。もう1つの新たなトレンドは、AIアプリケーションの爆発的な増加に対応するため、データセンターが計算能力を際限なく必要としていることです。少し前には、携帯電話市場が新たな先端ノードへと進む大きな原動力となっていましたが、それが変わりつつあり、今ではデータセンターとAIアプリケーションが必要とする性能によってノードのシフトが進んでいます。
次に、企業がパンデミックによるサプライチェーンの混乱から学習し、重要な製品の調達オプションを増やすことで、サプライチェーンの強靭化を図る動きが非常に活発になっています。これは、多くの国が半導体の国産化をめざして行っているハイパフォーマンス・コンピューティング半導体への大規模投資と連動するものです。
その次のトレンドは、エレクトロニクス企業が投資の中国や米国への一国集中を避けようとしていることです。チャイナプラスワンあるいは米国プラスワンと呼ばれる投資先を広げる戦略は、インフラやオーバーヘッドを大幅に追加することになります。それが正しく行われなければ、業界が負担するコストが増大するでしょう。現在のシングルソースモデルでは、力ずくで人材をどんどん投入しても、そのコストメリットとスケールメリットを維持することは難しくなるでしょう。小規模でグローバルに分散した製造施設をコスト効率よく管理する、新たなアプローチが求められています。
最後のトレンドは、経済全般の電動化です。自動車は内燃機関から電動へと移行しています。つまり、ますます多くのエネルギーが電気で賄われ、太陽光発電とバッテリーが重視されるようになるということです。バッテリーには電力変換が必要です。
炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)といった高帯域半導体には、極めて大きな潜在的可能性があります。興味深いのは、中国が市場のこの分野で迅速かつ積極的に動いていることで、中国は電化をサポートするテクノロジーの主要生産国になるかもしれません。当社が欧米市場と同様に、中国市場にも進出することで、中国メーカーの台頭は早まり、当初予想されていたよりも多くの有力サプライヤーがひしめく世界が到来するかもしれません。
Smith:データセンターとAIについて言及されました。AIはあらゆる場所に広がり、半導体業界に革命をもたらしています。EDA企業各社もAIの組み込みを話題にしていますが、これをどのように見ていますか。
Kibarian氏:データセンターで使用されるチップの製造にもAIは利用されています。例えば、PDFの顧客は当社の分析サービスやクラウド上のExensioプラットフォームを使って、大量の製造データや製品・テストエンジニアリングデータを分析しています。このような自動化ソリューションなしでは、大量のデータセットのごく一部しか実際に活用することができないでしょう。
企業は、製品の設計やテストの技術者を、収益の一定割合の予算で雇用しています。収益が数十億ドルの企業であれば、製品設計やテストに多くの技術者を投入できるでしょう。しかし、それでどれほどの生産性につながるでしょうか。AIなしでは、簡単なレポートやグラフィックを使って、対象データのサブセットを分析することしかできません。PDFのGuided Analytics機能のようなAIソリューションは、高度な機械学習ツールを、ラージデータ全体の分析に適用します。AIは、技術者がラージデータを扱うことを可能にして生産性を高め、最終的にすぐれた製品をもたらします。
計算量は微細化のスピードを上回るペースで増加し続けています。計算能力が上がれば、ラージデータ全体を調べ、関連するものを高いコスト効率で特定できるようになります。
さらに、AIは半導体企業の製品製造にも貢献しています。従来の計算システムは、チップを基板上に組み立てたものでした。AIはシステム・イン・パッケージを軌道にのせました。
その生産フローは、ファブレス企業がシステム企業化したことで、より複雑になりました。
その逆に、システム企業は、ファブレス企業や半導体メーカーへと変化しています。かつてのシステム企業は、好みのファウンドリに部品を発注していました。基本的に、ファウンドリがシステムメーカーとなって、パッケージと99%のテスト歩留まりを提供していたのです。
現在のシステム企業は、おそらくはファウンドリをパートナーとして、さらに複雑化したパッケージでシステムを構築していますが、そのためには、KGD(known good die)を入手する必要があります。HBMなどのチップを他のサプライヤーから入手する場合は、必要なタイミングで確実に供給されなければなりません。要するに、システム企業はメーカーとなり、顧客が製品テストを管理する方法を変えつつあるのです。彼らはテスト挿入ポイントを増やし、機械学習やAIを活用して生産性を高めようとしています。
Smith:デジタル・ツイン、つまりチップからシステム全体まで、あらゆるものの仮想モデルについてお聞きします。製造業におけるデジタル・ツインの影響や有効性をどのように見ていますか?

Kibarian氏:製造の観点では、デジタル・ツインはこれまで、エッチング装置のような製造装置のチャンバー動作モデルか、TCADによるデバイスや構造のシミュレーションを意味していました。
問題なのは、純粋に物理法則に基づいたデジタル・ツインというものは存在せず、経験的データを利用しなければならないということです。明日のシステムのモデリングは、昨日の技術に基づいているという冗談がありました。物理法則で材料、デバイスの構造と動作をカバーしようとすると、新しい技術の開発コストがかさんでしまうのです。
物理法則と経験的データをベースにしたモデルは、開発レベルに追いつくことはありません。90nm技術をモデル化することはできますが、それを1~2nmのウェーハプロセスに適用することはできないのです。AIと機械学習、そしてより洗練されたアルゴリズムを使ったモデル構築が、この溝を埋める助けとなり、それが今、研究開発レベルで起こり始めています。
開発の現場で、物理法則に基づいたモデリングとAIモデリングの世界をうまく融合してバーチャル・モデルを作成している企業はまだありません。バーチャル・モデリングの分野には大きなチャンスがあります。
大規模言語モデルのアルゴリズムは、インターネットからデータをかき集めて機械学習の膨大なトレーニングセットを構築できるので、どんどん改善できます。しかし、半導体の世界では、データソースは組織内でサイロ化されているのが通常で、ベンダーとは共有されないことがほとんどです。このため、業界が既存のデータを最大限に活用し、目に見える経済的利益を生み出す速度が制限されています。
概して、半導体製造には無駄になっている生産能力がかなりあります。工場稼動効率は最大でも90~95%止まりです。実情は、現在ほとんどの工場の製品ウェーハプロセス時間は40%~60%、テストフロアでも70~75%でしょう。業界が新しいタイプのAIモデルを活用して、保有する生産能力の効率を高めることが非常に重要です。
業界は企業間のデータ共有の方法を見直して高度なAIを活用し、新式の使用可能なデジタル・ツインを作成する必要があります。もし業界が変化を起こさなければ、大規模なデータセットを持つ巨大企業だけが優位に立つことになり、1~2社の勝者以外は、競争力を失ってしまうでしょう。
Smith:業界で情報共有の方法を標準化するなどして、各社の独自データを保護しながら優れたモデル構築をすることはできないでしょうか。
Kibarian氏:コンピュータサイエンスの準同型(ホモモルフィック)暗号などの技術が参考になります。暗号化後もパラメータ間の関係は残りますが、元になる数値や生データは見えなくなります。製薬会社や医療業界は、「医療保険の携行性と責任に関する法律(HIPAA)」で義務化されている、必要な情報を保持しながらデータにノイズを付加する方法を備えているのです。
私たちの業界は、データを最大限に活用する方法を検討するとなると、まるで無条件反射のように、自分たちの情報やデータを、医療データや財務データよりも高い機密性があるものとして扱おうとします。私はそんなことはないと思います。
Smith: オープンソースの動きが業界に変化をもたらすことは間違いないでしょうか?
Kibarian氏:当社は、OSレベルの仮想化やKubernetesと独自システムを比べた場合、オープンソースを強く支持します。Cassandraのようなオープンソースのデータベース・テクノロジーも利用していますが、エンド・マーケット向けのオープンソース・ソリューションの価値については懐疑的です。基礎となるオープンで利用可能なITレイヤーを持つことは、独自システムと比較して、より迅速なイノベーションのスピードと、セキュリティの脆弱性やパッチを調整する能力が向上することになり、非常に大きな価値があります。
Smith:PDFは製造と設計のちょうど中間に位置します。EDA側では、設計者と製造の間でより多くのコラボレーションが進んでいます。この2つの領域を近づけるにはどうすればよいでしょうか?
Kibarian氏:いい質問ですね。私の第一感は、最大手の設計会社と製造会社を見ることです。これらの大手企業は、仕事を失敗なく行うために多額の資金を投じます。そうなると、業界は少数のプレーヤーに集中し、イノベーションは起こりにくくなります。しかし、チップレットや先端パッケージングの世界では、システムのすべてを1社で構築する必要がないので、チップレット・サプライヤになるチャンスは広がります。チップレット・サプライヤは、様々なシステムに向けてチップレットを販売できるでしょう。
システム側から見れば、ソフトウェア、データ共有、分析によってピースをつなぎ合わせることで生産性を高め、避けられない逆風の一部を相殺することもできるでしょう。そのためには、製造と設計の距離を縮めるソフトウェアとシステムを導入してパラダイムを変えなければなりません。
John Kibarian氏について
John K. Kibarian氏は、PDF SolutionsのCEO兼共同創立者です。1991年より社長、2000年よりCEOを務めています。カーネギーメロン大学で電気工学の理学士号、工学コンピュータサイエンスの理学修士号および博士号を取得しています。
Robert(Bob)Smithは、SEMI技術コミュニティであるESD Allianceのエグゼクティブ・ディレクターです。