1992年に、AMDのCEO、ジェリー・サンダース氏は、ファブレス企業CEO数人の前でこう発言しました。 「よく聞きたまえ、ファブを持っているものこそ本物の男だ!」と。しかし、2008年にはAMDも製造資産を売却し、設計と製造の二分化という新しい現実を受け入れた何百もの半導体設計企業のひとつとなったのです。
この二分化は今でも激化の一途をたどっています。市場調査企業のIDCは、半導体市場に占めるファブレス企業の収益割合が2019年の30%から2028年には62%の高水準に達すると予測します。その生産能力を提供するのはTSMCのような大手ファウンドリが主力となりますが、それは政府や自動車メーカーが求める緊急課題に対するひとつの答えに過ぎません。ファウンドリ以外に、チップの生産能力を確保できるどのようなオプションはあるのでしょうか?
COVID-19のパンデミックやロシアのウクライナ侵攻のような衝撃によって、半導体生産能力は再注目されることになり、企業はファブを所有することなく、半導体生産能力を確保する方法を検討する必要に迫られています。
Sanders氏の発言以降、ファブレス化のリスクは劇的に減少しましたが、完全になくなったわけではありません。本稿では、コストを下げながらシングルソースへの依存度を下げ、サプライチェーンのコントロールを取り戻すための3つのモデルを紹介します。

IDC、SEMICON West、2024年7月
Sanders氏の発言以降、ファブレス化のリスクは劇的に減少しましたが、完全になくなったわけではありません。本稿では、コストを下げながらシングルソースへの依存度を下げ、サプライチェーンのコントロールを取り戻すための3つのモデルを紹介します。
オプション1 – 自社専用生産能力の構築
多くの企業が、リスクバランスを改善し、割り当ての順番待ちを回避するために、自社専用生産能力モデルを選択しています。このモデルでは、企業は製造プロセスの一部を所有することで生産能力を確保し、その他のコストはファブオペレーターに負担させます。
ほとんどの企業にとって、製造の主導権を放棄することによるサプライチェーンリスクは、現代のチップ製造に必要な物理的インフラのコストが不要になることで十二分に軽減されます。ボストン コンサルティング グループ(BCG)のレポートによると、2026年に更地から新規にファブを建設した場合、10年間の総所有コスト(TCO)は350億ドルから430億ドルに上り、2023年と比べて33%から66%上昇しています。企業が他社にチップ製造を依頼することを選択するのも不思議ではありません。

Construction Physics, How to Build a $200 Billion Semiconductor Fab, May 3, 2024
自社専用生産能力の構築には様々な形態があります。一例として、契約の早期に製造装置購入資金をコミットして、ウェーハ製造の割引を求めるケースなどがあります。このようにして、物理的なファブ・インフラの所有やファブオペレーターの雇用を心配することなく、チップ製造プロセスの一部に対する所有権が保証されます。
このモデルは、ファウンドリやIDM(垂直統合型デバイスメーカー)にとっても等しく有益な取り決めとなります。企業は多くの場合、これら装置の長期間にわたる完全な所有権を取得し、新規顧客へのサービスが可能になります。
オプション2 - 合弁投資パートナーシップの設立
新規ファブの建設投資は大手IDMにとっても困難であり、シナジー効果のある共同投資が増加しています。TSMCは2023年8月に、Bosch、Infineon、NXPの欧州IDMとパートナーシップを組み、ドイツのドレスデンに100億ユーロ以上を投じて300mmファブを建設することを発表しました。この取り決めでは、TSMCが70%の所有権を保持し、IDM3社はそれぞれ10%の株式を保有します。それから1年余り後、NXPは合弁事業をさらに増やし、台湾の別のファウンドリであるVanguard International Semiconductor(VIS)と78億ドルの合弁事業を締結し、シンガポールに300mmファブを建設する発表をしています。
企業にとっては、実績のあるファウンドリと提携することで、投資の有効性に対する懸念が解消され、投資効果が最大化されるという確信を深めることができます。また、ファウンドリにとっても、生産能力拡大の建設や装置のコストに対する補助が得られ、同時に専属の顧客も確保できるというメリットがあります。
資本注入に際して、他のメーカーとファブスペースを共有する複雑さを回避しようとする企業もあります。ここ数年で2つの大きな発表をしたIntelが、この戦略の中心的存在です。まず、同社は2022年8月にBrookfield Asset Managementと契約を締結し、製造力増強のための新たな資本プールを獲得しました。
この契約の下で、両社はIntelのアリゾナ州チャンドラーキャンパスの製造力拡大に最大300億ドルを共同で投資しようとしています 。総費用の51%をIntelが、49%をBrookfieldが出資します。Intelは、チャンドラーに新設される2つの最先端チップ工場の所有権および運営権のマジョリティを保持し、Intel製品の長期的な需要を支えるとともに、Intel Foundry Service(IFS)の顧客に生産能力を提供します。
Intelは最近も同様の契約を発表しました。アイルランドのライクスリップにある300mm工場Fab 34の合弁事業です。インテルは合弁事業の株式の49%を投資会社のApollo Global Managementに110億ドルで売却することに合意しています。これにより、Intelは新工場の完全な所有権と運営権を維持します。
オプション3 - サードパーティのファブスペースのリース
おそらく最も目立たない選択肢は、単に遊休ファブのスペースをリースすることでしょう。しかしこの方法では、利用できる生産能力が市場の状況に左右される場合があります。供給側からすると、これは低稼働率に悩むファウンドリやIDMにとって魅力的なオプションです。需要側からは、生産能力の長期的なコミットメントの負担がない、短期的な確保の方法となります。
Elmosがドイツのドルトムントにある200mmファブをLittelfuseへ売却するにあたり、同社はファブで生産されるウェーハの一定量を複数年にわたり購入する生産能力共有契約の締結に合意しました。この契約により、Elmosはファブの所有権を保持し、Littelfuseは供給契約の条件を満たすために製造施設の一部をリースします。この取り決めにより、Littelfuseは製造スペースを管理できる一方、Elmosはドルトムントの本社のプレゼンスを維持することができるのです。
もうひとつの例は、Skorpios Technologies がカリフォルニア州テメキュラにある旧 Infineon 150mmファブに最近移転した際のものです。このファブはSkorpiosに近代的なクリーンルームと将来の成長のためのスペースを提供することになり、同社は2回の10年延長オプションつきの15年リース契約を締結しました。
生産能力の確保はチップ企業にとって目新しい問題ではありませんが、半導体製造コストの高騰で、これまで以上に複雑化しています。世界のファウンドリ売上高の60%以上を占めるTSMCは、チップ業界を前進させ、生産能力を拡大し、その過程で多くの企業のファブレス化を可能にしました。TSMCは市場を制覇していますが、その全てではありません。ファブレス、IDMを問わず、各社はコスト高騰の中で自分たちの生産能力問題を解決しなければなりません。自社の生産能力構築、ジョイント・ベンチャー、そして従来のリースさえも、将来の生産能力の確保が、企業の企画・財務チームの創造性に左右されることを示唆しています。2025年は興味深い年になりそうです。次に何が起こるか楽しみです。
Stephen M. Rothrock氏について
Stephen Rothrock氏は2000年にATREGを設立し、世界的な先端技術企業のウェーハ・ファブ(前工程および後工程)、MEMS、太陽電池、ディスプレイ、研究開発施設など、製造資産の売買を支援しています。過去25年間で、全世界の半導体業界におけるウェーハ・ファブ売却の40%、トータルで60件の取引を完了させました。最近では、onsemi、Allegro Microsystems、富士通、GLOBALFOUNDRIES、IBM、Infineon、松下(パナソニック)、Maxim、Micron、NXP、ソニー、Qualcomm、Renesas、Texas Instruments、VISなどの世界的な売買を手がけています。ATREG設立以前は、Colliers Internationalのグローバル・コーポレート・サービス・イニシアチブを立ち上げ、シアトルに拠点を置く同社の米国部門を統括しました。それ以前は、ロンドンの商業不動産仲介会社Savills Internationalでディレクターを務め、大手の多国籍企業やテクノロジー企業にサービスを提供するグローバル・コーポレート・サービス・プラットフォームを確立しました。また、英国上場不動産会社の国際取締役も務め、パリ近郊で4年間、国際NGOに勤務しました。Rothrock氏は英国のハル大学で政治理論の修士号を、シアトルのワシントン大学でビジネス商学の学士号を取得しています。