シリコンカーバイト(SiC)は、バンドギャップが大きく熱伝導性も高いため、急速に成長する複数の産業分野においてパワー半導体への採用が進んでいます。高耐圧、高周波駆動という特徴により、特に電気自動車などのe-モビリティの電力効率を大幅に向上することが可能で、従来のシリコンベースのパワーデバイスと比較して、サイズ、重量、速度の面で大きなメリットを提供します。
しかし、SiCがどれほど有望であっても、業界が需要の高まりに対応するには、依然として数々の大きな課題があります。主な障壁には、コスト、信頼性、生産能力などがあり、SiCが完全に成熟するためには、これらすべてに対処する必要があります。
SEMIは、EntegrisのCTOオフィス先進技術エンゲージメント担当シニアディレクターのMark Puttock博士に、材料サプライヤーの視点からSiCパワーチップの製造拡大の課題についてお聞きしました。Puttock氏は、今年11月14日にミュンヘンで開催されるSEMICON EuropaのEntegrisセッション「Cultivating a Thriving SiC Market: Tackling Key Challenges Across the Value Chain」で講演する予定ですが、それに先立ち見解を述べていただきました。
SEMI:環境危機やAIなどのグローバルなメガトレンドがSiCパワー半導体の必要性を拡大しています。現在の状況はどうなっていますか?
Puttock氏:高効率なパワーエレクトロニクスに対する需要の増大は、車両の電動化、環境保護にむけた脱炭素化、電力を大量消費するAIチップの台頭といったメガトレンドによって加速しており、ワイドバンドギャップ半導体の必要性を押し上げています。SiCは、従来のシリコン(Si)と比較して、重量、サイズ、速度の面で優位であり、特に600V以上の自動車向けアプリケーションではこの優位性が非常に重要となります。しかし、SiCチップの製造は、シリコンチップの製造プロセスのようには成熟していません。プロセスが成熟してゆけばコスト削減につながり、市場での採用が加速するでしょう。
SEMI:SiCの量産化における主要課題は何でしょうか?
Puttock氏:SiCパワーチップを大量生産へスケールアップする上で、課題があることは当然です。なぜなら、量産メーカー各社は、まだ初期段階の課題を解決するだけの十分な経験を積んでいないからです。材料の特性面でも、SiCはSiと比較して管理が困難になります。当社では次のような課題を特定しています。
- CMP:SiCの硬度はシリコンよりはるかに高く、ダイヤモンドに次いで固い素材であるため、平坦性と低欠陥性を維持しながら加工速度を上げることは困難です。CMPは、ウェーハプロセスの終わりや、デバイス層のエピタキシャル成長の前において非常に重要な工程です。
- ハンドリング:SiCはシリコンよりも脆いため、損傷や破損が生じやすくなります。
- イオン注入:SiCはSiよりもイオン注入が難しく、Siより高い温度が必要で、またP型不純物原子としてホウ素ではなくアルミニウムを使用する必要があります。長期間安定した信頼性の高いアルミニウムイオン源を獲得することも、大きな課題です。
- 熱処理:SiCは結晶成長で2000℃以上、エピタキシャル成長で1500℃以上と、Siよりも高温で処理するため、高い耐久性を実現できるチャンバー部品が必要となります。
- サステナビリティ:SiCは非常に硬いため、CMPプロセスでは大量のスラリーが必要となります。スラリーのリサイクルと排水管理の改善が今後も課題となります。
SEMI:SiCウェーハのCMPに関連した課題を詳しく説明していただけますか?
Puttock氏:SiCウェーハの加工は難しく、従来のシリコンと比べて特殊な材料や手法が必要です。CMPのプロセスを最適化できないと、SiCウェーハの結晶欠陥が、プロセス中にデバイスのエピタキシャル層にまで広がる可能性があります。そうなると歩留まりの低下、電気抵抗の増加、性能の低下、電力の浪費が発生します。
SiCウェーハは、活性層を形成する前に、切断、研削、ラッピング、ポリシングを行い、必要な表面特性を整える必要があります。 SiCデバイスの生産量が増大したことで、CMPプロセスを最適化して、デバイスの製造に必要な表面の品質と平坦性を確保することが不可欠となりました。 CMPプロセスの課題についてより深く理解していただくために、最新のホワイトペーパー「Solving CMP Challenges in High-Volume SiC Production」をダウンロードすることをお勧めします。このホワイトペーパーでは、以下の課題を取り上げています。
- 高い研磨レートで最大限の平坦性を得る
- TCO(総保有コスト)の低減
- SiCウェーハ特有の化学的性質とトポロジーに最適化したCMPスラリーと研磨パッド
SEMI:SiCのCMPプロセスにスラリーを最適化するというのは、どういう意味ですか?
Puttock氏:CMPスラリーは通常、化学反応溶液中に分散した研磨用ナノ粒子で構成されています。目的とするのは、高い研磨レート(7µm/m以上)で、欠陥のない滑らかな表面(1A Ra以下)を実現することです。
従来、高い研磨レートと平坦性を両立するには、2種類のスラリーが必要でした。このアプローチでは、SiCウェーハメーカーによっては、研磨レートが高く効率的なCMPプロセスよりも、欠陥のない表面を選択せざるを得ない場合がありました。現在では、プロセスの最適化により、SiCウェーハメーカーは1種類のスラリーで高い研磨能力と良好な最終表面品質の両方を実現できるようになっています。
さらに、CMPプロセスにおける最重要要素はスラリーですが、パッドも用途にマッチしていなければなりません。そうすることで、SiCウェーハ表面のスクラッチや汚染を防ぎながら、所望の平坦性を確保することができます。最適化された熱可塑性ポリウレタンCMPパッドは、従来の熱硬化性ポリウレタンパッドよりも性能が高いことが研究で示されています。最適化されたパッドのバルク硬度は、表面損傷を最小限に抑え、除去率を向上させます。
SEMI:SiCデバイスの今後の課題は何でしょうか?
Puttock氏:SiCデバイスは、優れたエネルギー変換効率と環境負荷の低減により、ますます注目が高まっています。しかし、SiCの製造プロセスが高温であることで、大量の電力を消費し、チャンバー部品の寿命を縮めるという課題が生じています。これに対処するには、今後数年間でプロセスの効率を高めることが極めて重要となります。
リサイクルもまた重要な課題です。例えば、CMP スラリーには、水のリサイクルと保全の可能性があります。当社では、この可能性に積極的に取り組み、業界の主要企業と協力して、材料の循環性と持続可能性を優先した新製品開発を行っています。
SEMI:EntegrisはSiC技術の進歩にどのような貢献をしていますか?また、近々に計画されているイニシアチブやパートナーシップはありますか?
Puttock氏:当社はSEMI Global Automotive Advisory Council(GAAC)のメンバーとして、Volkswagen、BMW、Porsche Consulting、onsemi、Infineon、STMicroelectronics等の主要な業界リーダーと、SiCに焦点を当てたワーキンググループに参加しています。 当社の取り組みは半導体サプライチェーン全体に及び、世界中のファブでICメーカーや製造装置メーカーと協力しています。さらに、当社は最近、onsemiとの長期供給契約を発表しましたが、これも当社のSiC技術の進歩に対する取り組みを裏付けるものです。
Mark Puttock氏について

Mark Puttock博士は、EntegrisのCTO室で先端技術担当シニアディレクターを務めています。物理学とプラズマ処理のバックグラウンドを持ち、半導体業界で30年以上の経験があります。2014年よりEntegrisのCTO室チームメンバーとして技術動向を追い、同社グローバル製品開発チームと協力して、世界の半導体メーカーすべてに向けたタイムリーで差別化された材料、ケミカル、コンポーネントの新製品を開発してきました。
Maria Daniela Perezは、SEMI Europeのコミュニケーションマネージャーです。