「電気自動車と半導体に必要な世界が求める重要鉱物がここにあります。AIデータセンターと経済成長に必要なクリーンエネルギーをここで築くことができます。」[1] この発言は、前米国大統領ジョセフ・バイデン氏が、2024年12月にアンゴラを訪問し、米国政府が資金提供するロビト回廊計画を支援した際のものです。ロビト回廊は、コンゴ民主共和国とザンビアの鉱山地域を鉄道によってアフリカ西海岸の港湾施設に接続するもので、西側の半導体およびエネルギー産業の成長に欠かせない重要鉱物の供給を拡大するための重要な一歩となります。
鉱業および鉱物資源・金属と持続可能な開発に関する政府間フォーラム(IGF)によると、「重要性が何を意味するかについては、普遍的に合意された定義がない(中略)重要性は、鉱物資源の豊富さ、鉱物が産業や経済発展に占める相対的な重要性、供給リスクと変動性の戦略的評価など、国や状況によって大きく異なる」[2]とされています。要するに、「重要鉱物」という用語は、地域、用途、現在の状況によって異なってくるのです。多くの国は、立法、予算配分、外交努力の指針として独自の重要鉱物リストを作成しています。例えば、米国地質調査所(USGS)は2022年に「米国経済と国家安全保障にとって重要な50の鉱物商品」というリストを発表しており、そのうち砒素、ジスプロシウム、ガリウム、ルテチウム、ロジウム、ルテニウム、タンタル、テルビウム、スズ、タングステンの10の鉱物が、半導体や電子機器に直接関連します。[3] 他のリストには、コバルト、銅、時にはウランが含まれることもあります。チップや電子機器を製造するほとんどの国にとって、重要鉱物はその国の産業を支えるために不可欠であると同時に、自国の領土内では産出しないものです。
サプライチェーン下流の電子機器や半導体製造企業の多くは、労働保護が充実した国に拠点を置いていますが、一方、原材料となる鉱物の採掘はしばしば人道に反する状況下で行われています。2024年4月、国連事務総長は、重要鉱物の責任ある採掘の課題に対処するため、「エネルギー移行のための重要鉱物に関するパネル」を設立しました。設立動機の一つは、鉱物採掘に関連する人権侵害への懸念です。「規模の大小を問わず、鉱業はあまりにも頻繁に人権侵害、環境悪化、紛争と結び付けられてきました。」[4]
「紛争鉱物」という用語は「重要鉱物」よりもはるかに狭く定義され、通常は錫、タンタル、タングステン、金(3TGと呼ばれる)を指します。この定義は、米国のドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法1502条[5]や欧州連合(EU)規則2017/821[6]などの政策枠組みでよく使用されます。これら4鉱物は、コンゴ民主共和国の武装勢力の主要な収入源として特定され、1996年に始まった第二次コンゴ戦争以来、600万人以上の命を奪った数十年に及ぶ戦争を助長してきました。[7] 例えば、2024年5月、ルワンダの武装勢力が、コンゴ民主共和国最大のコルタン鉱山の町を占領しました。この鉱山は、コンデンサの主要部品であるタンタルを精製する鉱石の世界第2位の生産地です。この侵攻は武装勢力の資金源となり、毎月少なくとも80万ドルの税収をもたらしました。[8]
過去 15 年間に、重要鉱物の採掘に起因する紛争や緊張に対処するためのいくつかの枠組みが登場しています。半導体業界で共有されている枠組みは、経済協力開発機構(OECD)によって策定されました。この組織が発行したガイドラインには、「責任ある企業行動のための OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」[9](図 1 の推奨措置を参照)や、3TG 鉱物に特に焦点を当てた「紛争影響地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのOECD デュー・ディリジェンス・ガイダンス」[10]などがあります。これらのガイドラインは、企業や組織が自社の事業またはサプライチェーンにおける人権や環境問題に対処するための枠組みを提供しています。

図1:「責任ある企業行動のための OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス」(2018年)におけるデューデリジェンスのプロセスと支援措置
紛争鉱物の調達を通じた武装グループへの資金提供を防止するため、統治機関により複数の規制が導入されています。米国では、ドッド=フランク・ウォール街改革・消費者保護法の第1502条により、証券取引委員会(SEC)に登録された企業に対し「コンゴ民主共和国または隣接する国で採掘された紛争鉱物の使用を公表する」ことを義務付けています。[11] 「開示ルール」とも呼ばれるこの規定に基づき、企業はSECに、紛争鉱物の供給源と流通過程を記載した報告書を提出する義務があり、またOECDガイドライン等の国内または国際的に認められたデューデリジェンス基準にも準拠する必要があります。
同様に、EU規則2017/821はOECDデュー・ディリジェンス・ガイドラインを参照し、EU域内の企業に対し、紛争鉱物の調達に関する監視、監査、開示を求めます。2024年にEUは人権および環境問題への対応を強化するため、EU企業持続可能性デュー・ディリジェンス指令(EU CSDDD)を採択しました。この指令の施行により、EU域内で事業を行うすべての企業(本社所在地を問わず)は、サプライチェーンにおける労働や環境に関する違反や刑罰のリスクを監視することが義務付けられることになります。
業界は多大な努力をして3TG鉱物に関連する紛争に対処していますが、その努力の効果は不明です。米国会計検査院(GAO)は、連邦政府の監視機関として議会に独立した超党派の情報を提供する役割を担っており、2010年からコンゴ民主共和国における紛争鉱物問題について報告しています。GAOの国際問題・貿易チームディレクタであるKimberly Gianopoulos氏は、2024年10月に発表されたGAOの最新のレポートを含め、長年にわたってこの一連の作業を主導してきました。Gianopoulos氏は「SECが紛争鉱物の開示ルールを2012年に発効してから10年以上が経過しましたが、最新レポートによると、鉱山と武装グループが集中するコンゴ民主共和国東部での暴力が開示ルールによって減少したという実証的証拠はなく、鉱物サプライチェーンのデューデリジェンス実施企業の大多数が、使用鉱物の原産地を特定できないと報告し続けています」と述べました。2024年の紛争鉱物報告書は次のリンクから閲覧できます:https://www.gao.gov/products/gao-25-107018
規制アプローチは、半導体業界が紛争鉱物問題に対処する方法の一つに過ぎません。多くの企業や業界団体は、材料の追跡やサプライヤー情報の収集を目的とした独自のイニシアチブを実施し、リソースを共有するための団体を設立しています。その一つが、責任ある企業同盟(RBA)の責任ある鉱物イニシアチブ(RMI)です。RMIのエグゼクティブディレクタであるJenifer Peyser氏は、このイニシアチブについて次のように述べています。「サプライチェーンの下流、中流、上流に位置する500社を超える会員企業に対し、グローバルな責任ある調達と規制遵守を支援するデューデリジェンス基準とツール、データ、ガイドライン、トレーニング、その他のリソースを提供しています。私たちの施設とサプライチェーンのデューデリジェンス基準は、長年にわたる国際基準を基盤としたものですが、規制遵守、持続可能性のリスクと影響の管理、責任ある鉱物サプライチェーンの促進に対する企業およびステークホルダーの新たな優先事項も反映しています。」 RMIに関する詳細情報は、次のリンクを参照ください:www.responsiblemineralsinitiative.org
SEMIはこの度、サプライチェーン管理イニシアチブの下に、新たな責任あるサプライチェーン(RSC)ワーキンググループを設立し、政府の紛争鉱物規制や不公正な労働慣行の規制に対応するため、サプライチェーン全体にわたる流通のトレーサビリティと原産地の特定を可能にするプラットフォームを提供します。RSCワーキンググループは、SEMI会員企業を結びつけ、重要課題への認識を高め、リソースを共有し、効果的な規制とスタンダードを提言することを目的としています。サステナビリティマネージャー、サプライチェーンエキスパート、プロセスエンジニアなど、様々なバックグラウンドを持つSEMI会員企業の従業員でワーキンググループは構成されています。参加を希望される方は、詳細をこちらのウェブサイトをご覧ください:https://www.semi.org/en/industry-groups/supply-chain-management
7月9日午前8時(太平洋標準時)/午前11時(東部標準時)より、SEMI責任あるサプライチェーンワーキンググループは、RBAのRMIエグゼクティブディレクタであるJenifer Peyser氏と、米国会計検査院(GAO)国際問題・貿易チームディレクタのKimberly Gianopoulos氏を招いたパネルディスカッションを含むウェビナーを開催します。参加者は質疑応答においてディスカッションにも参加いただけます。登録はこちらから:https://www.semi.org/en/event/critical-minerals-due-diligence-and-semiconductor-supply-chain
ウェビナー以降のイベントとしては、2025年10月7日から9日までアリゾナ州フェニックスで開催されるSEMICON Westでのパネルディスカッションが予定されています。
著者略歴:
Dr. Kimberly Harrisonは、カリフォルニア州ベイエリアに本社を置くデザイン会社AMFitzgerald & AssociatesのシニアMEMSデザイナーです。スタンフォード大学で機械工学の博士号を取得し、半導体業界でデザイナー兼プロセスエンジニアとして10年間勤務してきました。2022年にMEMS & Sensors Industry Groupの「Emerging Leader」に選出されています。SEMI責任あるサプライチェーンワーキンググループの創設メンバー兼リーダーとして、Harrison氏はSEMI会員がひとつになって、半導体サプライチェーンにおける人権問題の解決を議論する場を提供することを目指しています。
参考文献:
[1] バイデン大統領がアンゴラのベンゲラで開催されたロビト回廊トランスアフリカサミットに出席した際の発言(2024年12月4日)https://bidenwhitehouse.archives.gov/briefing-room/speeches-remarks/2024/12/04/remarks-by-president-biden-participating-in-the-lobito-corridor-trans-africa-summit-benguela-angola/
[2] 重要鉱物:入門ガイド(2022年11月1日)
https://www.igfmining.org/resource/critical-minerals-primer/
[4] エネルギー転換のための資源確保:公平性と正義に向けた重要なエネルギー転換鉱物の指針(2024年4月11日)
https://www.un.org/en/climatechange/critical-minerals
[6] https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2017/821/oj/eng
[7] コンゴ民主共和国における紛争(2025年3月20日)
https://www.cfr.org/global-conflict-tracker/conflict/violence-democratic-republic-congo
[8] ルワンダによるコンゴ民主共和国の反政府勢力支援を示す証拠(2025年1月29日)
https://www.bbc.com/news/articles/ckgyzl1mlkvo
[9] 責任ある企業行動のための OECDデュー・ディリジェンス・ガイダンス(2018年2月1日)
https://www.oecd.org/en/publications/oecd-due-diligence-guidance-for-responsible-business-conduct_15f5f4b3-en.html
[10] 紛争影響地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのOECD デュー・ディリジェンス・ガイダンス第3版(2016年4月6日)
https://www.oecd.org/en/publications/oecd-due-diligence-guidance-for-responsible-supply-chains-of-minerals-from-conflict-affected-and-high-risk-areas_9789264252479-en.html