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パッケージと半導体産業

有限会社エー・アイ・ティ 加藤 凡典

 

パッケージング技術から見る日本の半導体産業

携帯電話メインボード「半導体とはどういう産業なのか」ということを、再認識する必要がある。家電、通信機器、自動車、軍需、医療機器など、すべての製品において、半導体が用いられていない機器はない。半導体チップをSiウェーハや化合物半導体に作製(=いわゆる前工程)した後、パッケージ(=後工程)を行う。デバイスメーカーはここまでが主たる仕事で、製品として顧客に販売する。しかし、半導体単体では単なる1部品で、プリント基板上に実装し、筐体に組み込まれて、初めて機能するものである。頭脳だけでは生きていくことはできず、手足、内臓、呼吸器も必要である動物と一緒で、基板、筐体やコネクタなどがなければ、製品として機能しないことを素直に理解すると同時に、半導体の平均単価が、43-44円、LSIで125-130円、ディスクリートは5.5円程度と、決して高級品ではないということも、よく知っておく必要がある。

半導体を使用した製品、特にスマホやタブレットの市場と地域は拡大し続けている。半導体自体、携帯電話、PC、スパコンなどの創成期から現在の最先端技術までを実体験している、という強みを最大限活かした新たなビジネスモデルの確立と実践が、日本の半導体産業の再生にとって必要である。右に1996年製の携帯電話と、iPhone5の基板の写真を示したが、こうした技術の推移を、素材から実装までのトータルプロセスと装置、そしてそれらが採用された理由を熟知しているのが、日本の技術者である。

日本の後工程用材料メーカーの特徴

日本のデバイスメーカーや装置メーカーの世界の市場でのシェアや利益率の低下は顕著であるが、材料メーカーの強さは維持されている。リードフレームをはじめとするパッケージ用のサブストレートについては、韓国や台湾のメーカーのシェアも高くなっているが、その利益率は低く、韓国勢はビジネスからの撤退を本気で考えている。日本の材料メーカーが強くなった理由は、日本のデバイスメーカーが世界でも圧倒的なシェアを持ち始めた1980年代後半から90年前半において、ある意味では過剰品質とも言える日本のデバイスメーカーからの要求を満たす現場力と、信頼性という特殊な項目を満たすための分析、解析、試験を行う能力が高かったということが、大きな理由のひとつである。半導体材料だけのために分析・解析・信頼性評価装置を揃え、長い間認定を待つような体力はベンチャー企業にはなく、また台湾、中国の投資家の対象とはなりにくい産業である。さらに、ファブレスもありえず、一旦地位を固めてしまうと強力な競合メーカーが出にくい構造となっている。

 

表1 半導体後工程関連メーカの創立年(白地が戦前、ブルーが戦後)

企業名 後工程関連材料主製品 創立年
 田中貴金属(田中電子)  金線 1885
 大日本印刷  リードフレーム 1894
 凸版印刷  リードフレーム 1900
 イビデン  リジッド基板 1912
 日東電工  封止樹脂 1918
 住友ベークライト  封止樹脂  ダイアタッチ材 1918
 信越化学  封止樹脂 1926
 リンテック  BGテープ、ダイシングテープ 1934
 日本特殊陶業  セラミックパッケージ  リジッド基板 1936
 ディスコ  BG、ダイシング装置 1937
 新光電気工業  リードフレーム  リジッド基板
1946
 三井ハイテック  リードフレーム 1949
 住友金属鉱山  リードフレーム 1950
 三井金属  テープ基板 1950
 京セラ  セラミックパッケージ 1959
 日立化成  封止樹脂 1962
 新藤電子  テープ基板 1971
 東京精密  BG、ダイシング装置 1949
 新川  ダイボンダ、ワイヤーボンダ 1959
 カイジョー  ワイヤーボンダ 1948
 キャノンマシナリー  ダイボンダ 1972

 

表1に示すように、圧倒的なシェアを持っていた後工程の材料メーカーの多くが、50年~100年の歴史を持つ企業で、半導体関連以外にも多くの商材があり、研究所や分析センターなども持っている企業である。半導体関連だけでなく、こうした研究所や分析センターは、同じ設備や技術開発を他の分野に利用することができるので、分析や評価のコストも分散することが可能となっていた。また、会社全体の売上げが大きいため、数千万円から億に達する高価な分析機器や信頼性評価設備を備えることが可能な企業が、結果として大きなシェアを取っていったことになる。日本の半導体メーカーにも言えることであるが、経営という観点からは、こうした歴史のある大きな企業には欠点もある。本業でないという甘えと、半導体産業の持っている最新技術やマーケティングのあり方、営業の常識に精通していない人(他の事業で育った)が、事業部長や担当役員になることが多々見られる、ということである。

日本のパッケージング量産工場の長所と短所

欧米の半導体メーカーと日本のデバイスメーカーの違いのひとつに、パッケージ工場の位置づけがある。日本の半導体メーカーのほとんどが、直接の地方工場、あるいは関連会社を主として国内に持っていたのに対し、欧米は東南アジアに量産工場を持つか、パッケージの専業メーカーにパッケージを任せる、という大きな違いが1980年代からあった。また、日本企業の多くに見られるひとつの文化として、標準化に関する考え方が欧米とは異なることがある。日本の企業の場合、競合他社との技術やプロセスの違いを大切にする傾向があり、同じデバイスメーカーの工場でも、工場ごとに微妙に仕様が異なることは普通で、封止樹脂やリードフレーム、BG Tapeなどは膨大な種類が存在していた。会社全体での仕様の統一や図面の管理、在庫管理などがあまり行われず、各工場の個別最適化が進むことで非常に多くの仕様や図面が存在し、結果として会社全体としては多くの無駄を抱えていた。反面こうした個別の最適化は、日本の企業の良い特徴でもあり、技術スタッフ、現場の作業員が一体となって、品質向上、生産性向上を継続してきたため、半導体パッケージ工場における生産性や歩留りは世界でもトップレベルにあると考えている。しかし、人件費、電気・水などのインフラコスト、本社の管理費などが、韓国、台湾、中国、東南アジアに比較して高いため、後工程は儲からないという固定観念が生まれてしまい、市場の変化に対応することで付加価値の増加や差別化のチャンスがあったのに、それを自ら放棄してしまったのが日本のデバイスメーカーである。

利益の出るパッケージング産業構造とは

前工程と後工程に関して、その設備投資の金額の多寡、技術の困難度、話題性などから、イメージとして、前工程の材料の方が後工程よりもずっとコストがかかると考えている人も多い。グラフ1に、半導体のSiウェーハ、前工程用の材料、後工程用材料の市場について、1998年、2000年、2004年、そして2012年の比較をしてみた。ソースは、2004年までは電子ジャーナル、2012年はSEMIのものであり、それぞれ定義や精度が異なり、絶対値の比較はできないが、定性的に比較することは可能である。2004年までは、Siウェーハ、前工程用材料(フォトマスク、レジスト、剥離剤、CMPスラリー、ガスなど)、後工程用の材料(リードフレーム、リジッド基板、セラミック、封止樹脂、ワイヤ、ダイアタッチ材など)の3つの市場はほぼ同じであった。ところが、2012年では後工程用材料はSiウェーハの約2.6倍、前工程用材料の約1.6倍となっている。これは当然の現象で、配線の微細化、300mmの比率が増加すれば、1ウェーハあたりのチップの数は増加し、単位チップ当たりのSiウェーハ、前工程用材料のコストは低減するが、後工程用材料はチップの個数にほぼ比例するからである。半導体市場とLSIの個数を比較しても(グラフ2)、1998年を1とすると、出荷金額は2012年で2.3倍であるのに対し(WSTS)、数量は3.2倍程度(筆者推定)になっている。このことは、後工程のブーレクスルーができれば、材料代の大幅な低減が可能である、ということを示している。

グラフ1

グラフ2

半導体のビジネスを、パッケージングとモジュール製造を中心にその設計に重点を置いたビジネスモデルを構築することが、儲けるパッケージビジネスのひとつである。前号SEMI News,(July-September, 2013)で、明星大学の大塚先生が強調されていることは、パッケージ技術が電子機器システムの性能を決めると考え、技術者には勉強することがたくさんあるが、そこで培われた知識と経験に裏付けされた知恵が、新たな世界をリードするビジネスを構築できる分野である、ということである。日本企業が目指すところは、ASE、Amkorなどと同じビジネスモデルではなく、フォクスコンのようなEMSとも違う新たなビジネスモデルの構築である。Wafer Level Packageとモジュールの設計と製造をコアとし、プラスチックパッケージは小型のQFN、DFNを従来のプロセスとまったく異なる方法で作製する、といったコンセプトで、物流、サプライチェーン、在庫の最適化を、常にデータにより管理できる会社にしなければいけない。しかも1社だけのシステム構築ではなく、装置、材料、ソフトなどの関連企業と情報をリンクし、新たな産業分野として活性化することが大切である。

(初出 SEMI News 2013年10-12月号)