SEMI通信 2018年10月号 Report 1

新世代自動車とセンサー

 

IHS MEMSリサーチ上級主席アナリスト リチャード・ディクソン

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センサーの未来は、将来の全自動・半自動運転車の要求仕様と切り離せない関係にあります。工業用強度を備えたジャイロスコープを使った緻密な推測航法による優れたナビゲーションから、直感的なヒューマンマシンインタフェースが備わったインテリジェントでパーソナライズされたコックピットやスマートシートまで、全自動・半自動運転車はセンサーを利用して、圧倒的に優れたカスタマーエクスペリエンスを実現して行くのです。

 

推測航法 – 現在位置を正確に知る

測航法とは、以前に確定された位置情報を基準にして、そこから進んだスピードと時間を使って現在位置を計算するプロセスです。とても有用なプロセスとして、推定航法は航空宇宙飛行やミサイルの誘導の慣性ナビゲーションシステムの基礎となっており、皆さんのスマートフォンにも搭載されています。

現在、クラス最高のMEMSジャイロスコープの解像度は200mあたり30-50cm(ヨーレートのドリフト量)となっています。これはGPS信号が失われる通常のトンネルの長さです。半自動運転(L3)または全自動運転(L4、L5)に必要な位置精度は10cmよりもずっと小さくなり、これを達成できるのは、バイアス安定性が1°/hから0.01°/hの範囲の工業用もしくは航空宇宙用の最上級ジャイロスコープだけです。こうしたヘビーデューティなジャイロスコープは100ドル~1000ドルと高価になります。

 

図1:ジャイロスコープのアプリケーションとバイアス安定性の性能(HIS Markit)

ジャイロスコープのアプリケーションとバイアス安定性の性能(HIS Markit)

 

このことは、Silicon Sensing System、Analog Devices、村田製作所、エプソン、トーヨーコム、TDK InvenSenseといった MEMSベースの工業用ジャイロスコープセンサーメーカーだけでなく、Bosh、パナソニック、STMicroelectronics、TDK(InvenSenseおよびTronics)といった幅広いセンサー部品メーカーにとっても潜在的機会を提供します。

MEMSは、高性能、小型、軽量といった点では優れていますが、コストが課題となります。自動車の運転で必要とされるフェールオペレーショナル(故障時動作継続)モードでは、少なくとも採用初期は100ドル以上の高コストになるでしょう。2030年までに登場するであろう、比較的少数の全自動運転車についてもです。しかしながら、自動車の台数規模は、工業アプリケーションと比較すると大変魅力的であり、推測航法用センサーの将来の市場は大きな利益をもたらすでしょう。

 

スマート化する運転席

自動車メーカーは、人間は自分の物理的環境をコントロールしたがるものだという考えがちです。インテリアにはすでに力センサーや圧力センサーが組み込まれ、パーソナライズされた座り心地や、先進的なデュアルステージ(2段式)エアバッグによる安全性を提供しています。車種によっては、MEMSマイクを使用したノイズリダクションや、イメージ/MEMS赤外線センサーによるドライバーの検出も行われています。そのうちに、車内のCO2レベルをモニターするガスセンサーが、居眠りの原因となる危険レベルを検出すると警報を出すようになるでしょう。そしてスマートセンサーは、ドライバーに窓を開けるように「語りかける」か、あるいは換気システムを作動させるのです。現時点ではCO2センサーはまだ高価ですが、低価格品が発売されれば組み込まれる可能性があります。

全自動運転へと向かう未来の運転席は、こうした概念のさらに先に進む必要があります。座席には好感度の加速度センサーを組み込み、心拍数や呼吸数、身体の動きを計測します。身体の湿度や温度をモニターするデバイスが使用されるかもしれません。

それには、病院のベッドにパルスオキシメーターの代わりにMEMS加速度計を提供しようとしている村田製作所を見ていれば十分でしょう。この村田製作所製加速度計を車の座席につければ、発熱率の検出ができる可能性があります。これ以外のセンシング方法としては、ミリ波放射によるものがあり、本や雑誌などの物体越しにでも見ることができます。

センサーによる身体モニタリングの拡大を図る自動車デザイナーは、カメラで捉えた視線方向、まばたき頻度、目をつぶった状態、頭部の傾きといった情報と、座席データを総合して、運転車の身体コンディション、意識状態、さらには気分といった価値のある情報を提供しようとしています。

フランスの自動車部品メーカーFaureciaが2016年のパリモーターショーで発表した自動車用シートコンセプト「Active Wellness」は、このような技術が思ったより早く到来する可能性を示しました。Active Wellnessは、生体データを収集分析して、運転者の行動パターンや好みを保存します。試作品では、運転者の快適性を予測するための、身体コンディション、一日の内の時刻、走行状況、自動運転モード(L3、L4、L5)に基づくデータを提供します。その他にも、イベントによって発信されるメッセージ、座席の換気、車内灯の明暗、オーディオ環境の調整などが可能です。

 

CES 2018で発表されたFaureciaの「未来のコックピット」

CES 2018で発表されたFaureciaの「未来のコックピット」(出所 Faurecia)

 

その他にも、さらに進んだヒューマンマシン インタフェースの商品化や、数多くの試作品が存在します。米国自動車部品メーカーVisteonのHorizonコックピットは、音声やジェスチャーによる空調の調整などが可能です。静電容量センサーは、すでに多くのタッチアプリケーションに採用されていますが、タッチレス技術は、赤外線ダイオードによる近接測定から、三次元タイムオブフライト(光の飛行時間)測定によるジェスチャー操作まで、多岐にわたります。

明らかに、自動車デザイナーにとって、車内のヒューマンマシンインタフェースはますます自由になり、その結果、顧客が喜んでプレミアム価格を支払うような差別化が提供されるのです。

 

大量のセンサーを管理する

研究者は、多種多様なセンサーを備えた高機能自動車の問題を解決するための調査をしています。つまり、あまりにも多くのセンサーの入力があるため、デザイナーは複雑な配線や、ハーネスの重量に苦慮するようになっているのです。Faureciaを例にとると、同社では木材、アルミニウム、ファブリック、プラスチックをスマートサーフェス化して、表面にタッチセンサー式の静電容量スイッチを組み込もうとしています。このようなスマートサーフェスを使えば、センサー入力の増殖を抑制することが可能となり、配線の複雑化は解消されます。Faureciaのソリューションは2020年から提供が開始されます。

スイッチの機能化以外にも、フレキシブルエレクトロニクス、ワイヤレス電源、エネルギーハーベスト(電源の軽減)もソリューションを提供するでしょう。実際に最新の調査は、グラフェンベースのホール効果デバイスをフレキシブルなカプトンフィルムに組み込み、最終的にパネルと一体化することが可能であることを示しています。Jaguar Land Roverのような自動車メーカーも、特にラグジュアリーな車種でのエレクトロニクスやセンサーの増加による問題に対応するため、こうしたアプローチに関心を示しています。スマートサーフェスは、センサーのパッケージングに大きな変更を求め、半導体プロセスに破壊的影響を与える可能性がありますが、商品化されるまでにはまだ長い道のりが残されています。

2030年頃までには、全自動運転者が、わたしたちの気分や、バイタルサイン、活動レベルを検出するようになるでしょう。CO2濃度が危険レベルになったら、窓を開けるように警告し、空調システムは乗員の体温に基づいて座席の換気や冷暖房を調整します。車内が暑すぎたり寒すぎたりするのは、過去の話となるでしょう – 少なくとも、その快適レベルが最重要な運転者にとっては。自動車の中は、オフィスよりも、家庭よりも、映画館よりも快適に感じられるようになるかもしれません。おそらくは、自動車が皆さんのオフィスになり、娯楽センターになり、そして家族の長距離ドライブでは家庭となり、誰かが「まだ着かないの?」と言うこともなくなるでしょう。

(初出 SEMI Blog 2018年9月10日)

 

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