SEMI通信 2018年8月号 Report 1

SEMIマーケットシンポジウム: SMARTマーケット時代のムーアの法則

 

SEMI産業調査統計部門 ポール・セメンザ

 

半導体産業は変化の強風に晒されています。現在の半導体産業は、ムーアの法則にブレーキがかかり始めているものの、2019年にかけて成長が続くことが予想されています。これまで半導体需要を支えてきたスマートフォンとPCの両市場は成長ピークが過ぎたと思われますが、それに代わって、自動車など、大きな需要が見込める市場がいくつか浮上しています。こうした需要構造の変化につれて、半導体産業のプロダクトミックスや製造技術にも変化が起こっています。

さらに、AI、ブロックチェーン、スマートマニュファクチャリングといった新技術が、市場力学を再定義し、それを支える半導体エコシステムをも変えていくことになります。

困ったことに、半導体産業の成長継続にとっての最大の脅威は、自分自身で作り出したものではありません。マクロ経済のトレンドと、貿易政策の対立が立ちはだかっているのです。

SEMICON Westの展示会会期前日に開催されたSEMIマーケットシンポジウムで得られた情報をいくつかご紹介します。じっくりと見ていきましょう。

 

半導体市場

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SEMIのクラーク・ツェンとGartnerのボブ・ジョンソンが発表した予測によると、半導体産業は2017年に4,000億ドルを超えた後、2019年には5,000億ドルに達するという見通しです。Gartnerによると、スマートフォンとPCが今後も半導体需要の大きな部分を占めることに変わりはありませんが、2017年~2022年の市場成長をドライブする新たな主役は産業、自動車となり、次いでストレージ分野となります。ただし、ジョンソンはこうも述べています。「ロジックデバイスの需要をけん引しているのは、通信とデータプロセッシングの分野だ。ただし、量というより平均単価(ASP)の上昇が成長に寄与している」

 

最先端のプロセッサは、ASP変動の大きな要素ですが、ノードが一段階微細化するたびに装置コストは約20%上昇します。大きな課題となるのが、ムーアの法則がスピードを落とすなかで、大手ロジックメーカー各社の新ノードへの足並みはバラバラになり、独自のタイムテーブルを打ち出していることです。変化の激しいDRAM市場は、ツェンによると「スーパーサイクル」の只中にあってメモリー市場の成長をリードしてきましたが、2019年にピークを迎えることが予測されています。

当初、メモリー価格を押し上げたのは、主要メモリーメーカー4社のうち3社が、DRAMよりもFLASHに投資を集中したために発生した、DRAMの供給不足でした。しかし、供給量が増加した現在でも、DRAMの価格は歴史的な価格下降ラインよりも約10倍の水準を維持しています。現在のメモリー価格を押し上げているのは、アーキテクチャの複雑化です。メモリー価格がついに提供する価値によって決まるようになったのであれば、喜ばしいニュースです。

 

車載市場

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車載用半導体は、半導体需要全体の10%未満ですが、成長の余地があります。米投資銀行Woodside Partnersのルディ・バーガーは、自動車の最終市場の成長率は年間3%と高くないが、市場規模は1億台に接近していると述べました。電気自動車などの市場セグメントでは、1台あたりの半導体使用量が1,000ドルを超えており、さらに高額になるでしょう。

例えば、BMW i3には4,000ドル以上の半導体が使用されています。バーガーは、コネクティビティ、自動運転、シェアードモビリティ(カーシェアリング)が車載半導体の増加の重要な機会となると指摘しました。一例として、車載用カメラ市場は、2017年の20億ドルから、2022に年には60億ドルへと成長することが予測されています。

平均すると、高級車の車載半導体は1,000ドルを超え、大衆車の場合は400ドル程度だと、Bloombergのアーナンド・スリニバサンは述べました。自動車市場は機能やサブシステムによって細分化しており、それぞれサプライヤが異なるので、供給の集中はほとんど見られません。スリニバサンは、自動車の安全性と自動運転システムでは目的が大きく異なるので、開発は別々に進めるべきだと指摘しました。

 

ブロックチェーン

ブロックチェーンの最大の利点として、以下の4つの基本的特徴があり、それは「オンライン取引の当事者全員にもたらす信頼となる」と、Accentureのデービッド・トリートは述べています。

  1. 来歴のトラッキング(誰がデータに触れ、何が起こったのかを知ることができる)
  2. 不正改ざんの証拠(誰がデータを変更しようとしたか知ることができる)
  3. コントロール(どのデータ要素をどの集団と共有するかコントロールできる)
  4. データ要素レベルでのセキュリティ
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ブロックチェーンについて騒がれているのは、ほとんどがトークン化された資産と台帳(ビットコインなどの仮想通貨)のことですが、ベースとなる技術となる「ネットワーク上での複数のアクセス者が管理データに相互接続し、信頼性を共有する分散型ネットワークモデル」は半導体業界にも応用が可能です。中央集中型のサーバを介さずに信頼性の共有・管理ができるため、サプライチェーンや企業間のコスト削減をすることができます。

例えば、将来的にブロックチェーンが実施されると、サプライチェーン内のあらゆる参加企業が、エコシステム全域でデータを共有することができます。ブロックチェーンを展開するためには、通常は中心となる管理者が必要ですが、SEMIのような会員企業が参加する協会組織による展開も可能です。そうすれば、ブロックチェーンの利益がさまざまなエコシステムにおいて展開され、装置メーカー、材料メーカー、デバイスメーカー、ファブレス、システムインテグレーターは、ビジネス情報や技術情報を安全に、また必要なら匿名で共有することができるのです。

 

世界ならびにマクロ経済のトレンド

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半導体産業の成長継続にとっての最大の脅威は業界の外にあります。世界経済危機から10年間、安定した回復が続いた後、世界経済は減速に向かう模様です。Hilltop Economicsのダンカン・メルドラムは、世界経済は今まさにピークにあるか、それを過ぎたところであり、半導体製造装置はピークを過ぎていると主張しました。景気後退が近いことの重要指標となるのが、逆イールド曲線です。これは長期利回りが短期利回りを下回る現象で、今年あるいは来年に出現する可能性があります。

米国と中国による貿易摩擦のヒートアップが、複雑な構造をとるサプライチェーンを脅かしていますが、高額な関税よりも変わりやすい政策声明の方が有害となっています。

米中の競合する利益と予測がつかない関係を強調して、Semiconductor Advisorのロバート・メールは、2019年にはすべての半導体の60%が中国で消費され、米国の半導体企業のいくつかは中国への依存度を高めるだろうと述べました。

 

(初出 SEMI Global Update 2018年7月17日号)