SEMI通信 2018年7月号 Report 1

人とマシンの協調で実現する半導体製造のスマート化

 

ナンシー・グレコ、デーブ・メイユースキー、ジェームズ・モイン、ポール・ワーバネス

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本レポートでは、SEMI ASMC 2018におけるスマート・マニュファクチャリング・パネルディスカッションの議論の中でも特に関心を集めた、半導体製造以外の業界のスマートデータ活用事例を取り上げます。そして、特定領域の専門家(SME)と半導体によるスマートアシスタンスを組み合わせることで、どのような利益が得られるか、またこの組み合わせが半導体製造にとって何を意味するかを考えます。

スタンリー・キューブリックの独創的な映画「2001年宇宙の旅」は、50年前の4月に劇場公開されました。優れたSFモノといった範疇を超え、すべてのカテゴリーを俯瞰しても偉大と言えるこの名作は、AFI(アメリカン・フィルム・インスティテュート)選出のアメリカ映画ベスト100でも15位にランクされています。アルフレッド・ヒッチコックの「めまい」よりは少し下ですが、フランク・キャプラの「素晴らしき哉、人生!」よりも上という高評価です。

この映画は先見性に満ちており、現代のスマート工場、Industry 4.0、人口知能(AI)についても示唆を与えてくれます。少しだけ映画のストーリーを紹介すると、木星に向かう宇宙船ディスカバリー号に搭載された人工知能HAL 9000は、秘密裏に命じられた目的を達成するために乗務員を妨害し、ついには妨害をかい潜った宇宙飛行士デビッド・ボーマンによって電源を切られてしまうのです。

5月にニューヨーク州サラトガスプリングスで開催されたSEMI ASMC(先進半導体製造会議)では、半導体製造装置、半導体デバイス、研究機関、コンサルタント、そして半導体業界の外で活動するスマートマニュファクチャリングを代表する5社が、ASMCの参加者と共に活発な議論を繰り広げました。パネリストが議論したのは、現在の業界のどこが「スマート」であり、どこへ向かっているのか、またそれが、現在の最先端半導体製造技術をつくりあげ、未来のスマートマニュファクチャリングの実現を目指す専門家にとって何を意味するのかということです。

ASMCのパネリストと参加者は、人間の英知とマシンベースのスマート製造の組み合わせは、少しも不自然なことはないという点で意見が一致しました。ますますスマート化する未来を半導体製造で実現するには、スマートマシンが必要であると同時にスマートな人々が必要となるのです。

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スマート化に向かうということは、半導体製造と共にどんどん巨大化するビッグデータのプールの中から、有用な情報と判断基準となる知見(アクショナブル・インテリジェンス)を引き出す方法を理解するということです。現在の製造現場は完全に機械化されており、そこで生成された大量のデータを吸収、解読して、判断材料とし、あるいは廃棄します。

半導体製造装置は、数百から数千の部品で構成されています。それらが連動することにより、ナノメートル、オングストローム、さらには原子スケールの微細パターンを、プラズマプロセスの複雑な化学的、物理的な過程を経て製造しています。失敗を起こす可能性のあるポイントや状態はいたるところに存在し、いかなる努力を払ってデータを収集しても、十分に観察できるプロセスは限られています。その上、半導体製造プロセスは、常に変動しています。プロセスの状態は、製品構成や、オペレーティング条件、レシピの変更によって変化するのです。

 

スマートヘルスケアとの共通性は?

医師は診療に際して、患者の計測データを集め調べます。血液検査、血圧、体重といった定量的データです。しかし、医師がこうしたデータ分析だけで診断を下すことは通常はありません。医師は患者の前に座って質問し、患者の答えや、観察したこと、それらについての所見を記録します。そして、患者の診察データと計測データを総合して仮説を立て、妥当な診断ならびに有効な治療方法を引き出すでしょう。

この場合、計測データに加えて、医師は、人としての自然言語による思考と、人たる患者の仔細な観察が問題解決のための検討材料となります。このことこそが、成功を生む公式なのです。命にかかわる様々な病気、そして致命的ではなくても慢性的な病気に対するヘルスケアの領域は、これまで大きな進歩を遂げています。複雑な情報を採取し、臨床情報と患者の症状を照らし合わせて診断し、蓄積されている医薬品情報から適切な方法で薬を投与します。そして未来に向けて、健康維持に必要な一般的手法と標準的手順を伝えているのです。

医学においては、一見ビッグデータと思われるものも、実際には、スモールデータのクラスター同士が、各分野の専門知識をもった医師たちのニューラルネットワークで緩く繋がっているだけなのかもしれません。

半導体製造の領域で考えた場合、ここからどんな示唆が得られるでしょうか。

上記が意味するものは、ファブの各種装置で行っている計測データの収集と分析を、別のものに対しても収集・分析する必要があるということです。つまり、私たちは半導体製造の技術者やオペレーターの膨大な専門知識を、収集・分析対象としてとらえる必要があるのです。特定領域の専門家(SME)がファブにおいて歩留り低下や装置ダウンの問題を調べるときに見たこと、聞いたこと、考えたことを記録すべきなのです。

製品、プロセス、装置、部品の各領域の専門家の知識を、ビッグデータ分析と効果的に組み合わせれば、製造上の致命的あるいは慢性的問題を効果的に解決することも可能となるでしょう。そのためにSMEの意見と積極的な参加を取り入れるための仕組みを提供する必要があります。そしてこれを、データの収集、集約から、フィルター、特徴抽出、分析、最適化まで、データ分析の全体に適用しなければなりません。

困難なのは、SMEがファブで装置の前に立っているときに、どのようにしてリアルタイムに彼らから情報を集めるかです。IoTデバイスによって、イメージや音を収集してラベル付けし、機械学習アルゴリズムによって認識をし、計測データとそれを補うイメージと音によって製造上の問題の診断支援が可能になりました。一方、人間のSMEがこうした調査をする際の思考プロセスを記録することも必要です。おそらく、SMEがAIベースの会話型アシスタントに語りかけるかたちで、“往診”してもらうことができるでしょう。コンテキスト(文脈)分析をこうしたデータに追加し、計測データと組み合わせれば、人間+機械=AI(Awesome Insight、最高の洞察力)という計算式を成り立たせることができるでしょう。

 

本当に合理的な方法だろうか?

計算を完全に、AI(Artificial Intelligence、人工知能)任せにしてしまうと、AIはあまりにも人工的になってしまいます。AIは、人間の専門知識と創造性をコンピューターの高速計算能力と組み合わせ、問題の特定と解決をおこなう拡張知能(Augmented Intelligence)となるべきです。

しかし、これまでのデータ分析、クラウド、AIの大きな進歩をもってしても、半導体製造における品質、装置稼働率、予測分析の改善は漸次的であり、劇的で飛躍的な改善が実現していません。

スマートマニュファクチャリング、コネクテッドエンタープライズ、アドバンストマニュファクチャリング、アナリティック、クラウド、デジタルツイン…その呼び方は何であれ、哲学や技術に不足はないにもかかわらず、急速な採用に至っていないのが現状です。 これはどうしてなのでしょうか。

「良きビジネスリーダーは、ビジョンを創り出し、それを明確な言葉にする。そしてそのビジョンを情熱的に保有し、容赦なくそれを実現に向かわせる人間である」 ジャック・ウェルチ(General Electric最高経営責任者)

半導体以外の産業でも、スマートマニュファクチャリングの話し合いは、スマートマニュファクチャリングをビジョンとして捉える企業経営者からスタートしていますが、こうしたビジョンを実現することは困難なことが通常です。

 

なぜそうなのでしょう?

おそらく、そのひとつの理由は、過去に実施されたソリューションに権限を持つ人や、前例に従おうとする人が、意図的であるかどうかは別として、イノベーティブな行動を妨げる強固な内部障壁を作っているのです。もうひとつ考えられる理由が、現場のエンジニアやマネージャーにスマートマニュファクチャリングの実施を命じると、安易な成果を求めて投資に慎重になる結果、結局は全体への拡大や統合ができないソリューションを採用しがちだということです。

旧式の装置、旧式のネットワーク、従来からの考え方の不利益は当然として、一貫した測定基準の欠如もまた、混乱を招きます。こうした障壁の全てに取り組むには、戦略と実行の整合が求められ、またビジョン全体をサポートする計画が、企業全体を通して必要となるでしょう。これは簡単なことではありません。

次はスタンダード(標準化)です。ソリューション、ネットワーク、データを管理するスタンダードを作り、それに準拠することが、スマートマニュファクチャリングから本物の利益を引き出すためには必須となります。

そしてデータセキュリティです。スマートマニュファクチャリングへの移行に際して、もうひとつ大きな障害となるのが、データとIPのセキュリティという、恐らくはクラウドベースのソリューションで最も懸念される問題です。

装置とプロセスからなる製造システムの統合から、企業システムと製造設備の統合にいたるまで、製造のあらゆる局面に対応してシナジーを達成するためには、スタンダード、セキュリティ、インフラ、人間の知恵の統合を、エコシステムとサプライチェーンを通して確立することが前提となります。単純化して言うなら、アセットを連動し、データを収集・コンテキスト分析し、データから得られた実行可能なプロセスによるビジネスの移行を進めるということです。

企業の全ての職種と人間に影響がおよび、ファブの装置オペレーターから、本社の経営陣、保守、エンジニアリング、研究開発、IT、購買、経理、人材まで、全てが貢献し、協力し、利益を受けるのです。様々な異なるグループに所属している人同士が一緒になってスマートマシンとつながり、移行への共通戦略を生み出すのです。

 

企業の目標と人的資本を整合させることが最優先

ですから、私たちはチームメンバーに、自分たちの心地よいゾーンから外へ出ることを求め、テクノロジーと共に成長することが永遠に必要であることを認識する必要があります。スマートマニュファクチャリングは、必ずしもファブの人員を削減するというものではありません。それはファブに人員を置くことを求めます。その人員は、Industry 4.0で効率がさらに高められる、様々な技能を持った人々です。

幸運なことに、私たちは現在、SMEによる最高の分析を組み合わせる手法を利用することができます。これからは、最高品質の半導体製造ソリューションを提供するばかりではなく、こうした苦労を経て手にしたソリューションを、さらに改善するための方法をも提供できるようになるでしょう。

SMEはこれからもマシンベースのスマートマニュファクチャリングのスマート化を推進してゆくでしょう。SMEの貢献はオプションではありません。半導体製造の継続的な繁栄の必須事項なのです。

 

ナンシー・グレコ(IBM Watson)、デーブ・メイユースキー(Rockwell Automation)、ジェームズ・モイン(ミシガン大学/Applied Materials)、ポール・ワーバネス(Intevac, Inc)に加えて、ジュリー・ジェイコブ(Ernst & Young)、カーソン・ヘンリー(Micron Technology)が、SEMI ASMC 2018で、Industry 4.0と半導体デバイス商業生産の未来を議論したパネルのメンバーでした。本稿に書かれた意見はすべて筆者のものです。ご意見は、ポール・ワーバネスまでEメールでご連絡ください(pwerbaneth@intevac.com)。