SEMI通信 2017年2月 SEMIスタンダード情報

電子部品模造被害の現状とトレーサビリティの国際標準化

 

作成者 伊賀洋一

SEMI スタンダード 日本地区トレーサビリティ委員会共同委員長
ISO/TC 292/WG 4国内審議委員会委員長
ISO/TC292/WG 4プロジェクトリーダ

 

SEMIのトレーサビリティ標準化活動では、電子部品の模造品対策として、第三者認証サービスの仕組みを利用した、トレーサビリティ/セキュリティの文書「SEMI T22-0212」(タイトル:Specification for Traceability by Self Authentication Service Body and Authentication Service Body)を開発しましたが、2012年の初版以来、半導体業界にとどまらず、医薬品、食料品など様々な分野で広く参照されてきました。さらには、SEMI T22-0212の仕組みをISO化する動きも始まっています。

 

現在問題視されている部品模造品の現状

模造品被害総額は全世界で年間約80兆円に上るとも言われ、電子部品業界にとっても5%が模造品であることが判明しておりとても深刻な問題です。

例えば,米商務省 産業安全保障局(BIS)が2010年1月に発表した250ページにも及ぶ調査報告書「Defense Industrial Base Assessment:Counterfeit Electronics」は,兵器など軍用の半導体・電子部品での模倣品被害の深刻さを克明に描いています。(下の図参照)

図1

 

図2

 

図3

 

模造品製造業者の技術力の向上や世界経済のグローバル化にともない今やその被害は拡大の一途を辿っています。現在、電子部品の代表であるICチップはコンピューターを始め、家電、携帯電話、自動車、医療機器など、あらゆる形で人間の生活に関わっているのは周知の事実です。このような身の回りに存在する電子部品の模造品被害は物流を通じて人為的・悪意的に紛れ込むことで生じます。

一般的に模造品被害の対象となりやすい製品には、電子部品全般(交換部品、汎用品、廃番品、スペア品など)の中でも高価で流通量の多いICチップが挙げられます。当該製品の供給不足や生産終了が原因で正規流通網の製品在庫が底を尽きると、企業の購買政策上、非正規流通網から調達せざるを得ない場合に模造品被害に遭うリスクが高まります。模造品は安価かつ、手近にあるという理由からも企業が飛びつきやすい傾向にありますが、正規品と比べ性能が低く、全く動作しない粗悪品が多く存在します。

そのような模造品が自動車部品や医療機器部品に紛れ込んでいるとしたら、人命に関わる大きな社会問題となり、電子部品業界へ甚大な打撃を与えます。

 

米国政府法律制定<国防授権法>

オバマ前大統領が2012年1月の一般教書演説の中で今年の重要案件の一つとして国防省の中に新たな組織を設け電子部品も含む模倣品対策強化施策を構築すると訴えた。これに平行して2011年12月末に2012年度の新規法律をサインし、実行に移した。国防授権法<NDAAFY2012(HR. 1540, SEC.818) >

関連内容)レビン米上院軍事委員長(民主党)2011年12月8日 公聴会 

共和党のマケイン筆頭委員も賛同を表明

国防総省のオライリー・ミサイル防衛局長が、ミサイル落下(最終)段階で迎撃するTHAAD(落下段階高々度迎撃ミサイル)などに約1300個の偽物部品がみつかり、交換などで約400万ドル(約3億1千万円)の費用が生じたと報告した。米政府監査院(GAO)は、架空の会社を使ってA国業者から購入した電子部品7つを検査したところ、「本物は一つもなかった」とした。輸入電子部品に対する検査制度と部品企業を認証する制度の創設を盛り込むとともに、偽造部品の交換費用を納入企業が負担する仕組みの導入を目指す考えを示した。

これは、将来国防関連だけに留まらず、しかも電子部品以外の生命関わる安心安全関係、全ての資産に関係してくる動きがDOD等で検討されている。しかも直接、間接、代理納入、材料、設備、データー全てに関わってくる。このことから日本のビジネスにとっても産業障壁の観点で相当影響すると思われます。

 

模造品被害の対策<抑止効果>としての国際標準化の動き

このような電子部品、特に半導体への対策として,SEMIは、半導体のトレーサビリティ/セキュリティ技術を長年にわたって標準化してきました。最新の仕様である「SEMI T22-0212」(タイトル:Specification for Traceability by Self Authentication Service Body and Authentication Service Body)では,次のような第三者認証サービスの仕組みを利用しています。まず,政府が認めた第三者認証機関が固有のIDを発行します。半導体メーカーは,このIDを製品に付与するとともに,IDと製品情報をヒモ付けしたデータベースを第三者機関に渡します。これにより,半導体製品の購入者はIDを第三者機関に問い合わせることで,製品の真贋を確認できるというわけです。 (下図参照)

 

図4

 

もちろん,これだけでニセモノによる被害を完全に防げるわけではありませんが,犯罪への抑止力としては効果があることを期待しています。興味深いのは,この第三者認証サービスの仕組みが、2012年のSEMI T22初版以来、半導体以外の分野でも広く採用されてきたことです。例えば,欧州ではワイン、医薬品,米国では軍用品や食料品の分野にまでSEMI T22-0212のモデルが利用されていると聞いています。

さらに,SEMI T22-0212の仕組みをISO化する動きも始まっています。2009年にフランスが第三者認証サービスの仕組みを全工業製品に広めたいと主張し,ISO化を提唱したのがキッカケです。これに対抗するため,米国ではフランスが主張する認証の仕組み及び詐欺行為も含めた、広範囲のセキュリティ仕様を提案しました。現在はISOの「旧TC 247<ISO/TC 292/WG 4>」として,米国案の中に各国の案を盛り込む方向で調整が続いています。(下図参照)

 

図5

 

図6

 

今後も,人命にかかわる幅広い製品分野で今回のISO規格への準拠が求められると考えられます。例えば,エレクトロニクス分野では今後の成長が期待されるスマートグリッドや電気自動車の分野が対象になると聞いています。その場合,メーカーにとってはISO規格の認証を取得できなければ,市場に参入できなくなってしまいます。

過去,「Suica」などに利用するICカードでは,欧州主導のISO規格に準拠する必要があり,日本メーカーは事実上ビジネスから撤退し欧州が標準化してビジネスに参入できた経緯があります。今回も,それと同じことが起きないとは言い切れません。

 

日本の対応のあり方 

日本国内でも多くのメーカーがスマートグリッドや電気自動車の市場を狙っているわけですが,現状では日本は旧TC 247の議論に対し積極的な参加ができていません。米国がISO案への参加を日本に呼びかけた際,強制規格になりえることを嫌って反対票を投じたためです。しかしながら旧TC247の活動ができる賛成票を投じた国々があることから、最近になって、やはりこれでは日本の国益を損じる場合があることを熟慮し半導体工業会が中心になって,旧TC 247の議論に参加するために経済産業省承認のもと国内審議委員会及び実ビジネスへの展開としてコンソーシアムを2011年8月、政府を交えた官民合同検討会を2012年4月に発足させました。

 

日本の提案内容と具体的活動 

低価格製品でも評価可能な方法や、民間レベルの評価機関を公共機関に繰上げするための仕組みを強制ではなくケースバイケースで運用できるガイドラインを提案し、了承を得て、2011年5月の北京会議から真贋判定の考え方の標準化に向けて活動を開始しています。

しかし、真贋判定だけではリスク減少に繋がらないので、リサイクル市場までも含めた電子証明を使った事業者のホワイトリスト化を提案するとともに、コンソーシアムを並行して立ち上げ、国策ツールとして打って出ようとしています。この取り組みが、米国の法制化につながり、国防総省への納入品に対する検査制度と納品企業を認証する制度の創設とともに、偽造部品の交換費用を納入企業が負担する仕組みの導入を目指す考えが示されました。

なぜ、日本提案が認められているか、それは技術だけでなく安心安全が担保された信用おける企業を認可し、それを工場から物流・販売、お客様まで含めたサプライチェーンのホワイトリストフレームワーク構築と国際間の相互認証について技術と制度の両輪の提案があったためである。日本にとっては国内空洞化防止に向けた日の丸コンソーシアムでの対応が急務となっています。

従い、ICカードビジネスのような国益を損じないよう幅広い分野から参加者を募り,日本側の主張をISO規格及びコンソーシアムに盛り込む考えです。

 

参考資料)

SEMIジャパン スタンダード部 
2009年12月2日 「電子デバイス業界における模造品対策の取り組み」
http://www.semi.org/jp/node/60216
日経エレクトロニクス雑誌ブログ 2009年12月21日「ISO化で出遅れる日本」
HH News & Reports:ハミングヘッズ 2012年3月12日、同年6月4日、同年7月23日
日本規格協会(JSA)季刊Vol.65 No.10 2012年9月

 

筆者プロフィール>

伊賀洋一

ISOTC247国内審議委員会委員長、ISOTC247/WG3 コンビーナ。NEC、ルネサスエレクトロニクスを経て、SEMIトレ-サビリティ委員会委員長、JEITA半導体部会信頼性小委員会サブコミッティ認定WG主査を歴任。現在(一財)日本規格協会及び東芝半導体サービス&サポート(株)勤務。