SEMI通信 2017年2月号 Report 2

世界的なフッ素化合物規制で製造装置の変更が求められる恐れ

SEMI国際本部 サステイナブル・マニュファクチャリング担当 ディレクタ
サンジェイ・バリガ

 

問題の概要

2016年5月にSEMIは、欧州の規制案に対する警報を業界へ向けて発しました。装置メーカーに大きな影響を及ぼす恐れがあると判断したためです。欧州化学物質庁(ECHA)のEU REACH規制に基づく提案は、最終製品に対するフッ素化合物であるPFOAの使用を制限しようとするものでした。この規制の対象はコンシューマ製品に限ったものではなく、産業界で製造用に使用する製品も含まれ、欧州内のファブに設置された全てのウェーハ/基板プロセス装置も対象となります。

また、国連においても類似の物質規制が、ストックホルム条約に基づいて提案されています。この提案もまた最終製品へのPFOAを含む特定のフッ素化合物の使用を規制しようとするものです。ストックホルム条約の提案は、フォトリソグラフィプロセスでのPFOA使用も規制しようとしています。このままで採択された場合、これら規制は2020年あるいはそれから間もなく、地球上のほぼ全ての国で施行されることになります。

本稿は、EUの規制案、適合の課題、ストックホルム条約をとりあげ、そして対応策の提言をもって結論とします。

 

EUの規制案

2014年末に、REACH規制の権限の下、欧州化学物質庁(ECHA)は、EU内の製造と、EUに販売される全ての最終製品に対して、フッ素化合物であるPFOAの使用を規制する提案を発表しました。この規制は、PFOAを生成する全てのフッ素テロマー(注1)も対象とし、何千種類ものフッ素化合物が含まれます。PFOAは、残留性有機汚染物質(POP)のひとつで、自然には分解されにくく、食物連鎖により生物濃縮される性質があります。

(注1) ポリフッ素化(ポリフルオル)化合物とも呼ばれる

SEMIの国際本部ならびにSEMI Europeオフィスは、このEU規制案に対して、4回にわたり、様々な政府関係者にフィードバックを提出し、いずれにおいても、装置産業が規制に準拠するまで10年間の猶予を求めています。装置産業が代替化学物質を見つけ、採用をするまでの間は、PFOAを装置製造に使用することを認めてもらうということです。装置で考えられるPFOAの使用については後述します。

今年1月に、欧州政府関係者は最終規制案に投票し、この規制は法律となりました。以下にご注意ください。

  • 半導体製造装置に認められた猶予期間は5年しかありません。つまり、2022年の初めから、25ppbを超えるPFOAが全体あるいは個々の部品に残留した装置は、欧州市場には上市することも欧州のファブに設置することもできなくなります。
  • 半導体製造装置のスペア部品、交換部品、保守部品は、2022年以前に上市されたもの以外は、PFOAの残留量が25ppb以下であることが求められます。
  • 最後に、中古装置についても、2022年以降はPFOAの残留量が25ppb以下でなければ、上市できなくなります。

 PFOA規制への対応がいかに困難であるかを理解するためには、装置へのPFOAの利用とこれを除去するために必要なことを理解する必要があります。

 

装置でのPFOA使用と適合上の課題

私たちが知っているのは、PFOAがフッ素樹脂コーティング材料(例えばPTFE、つまりテフロン)の製造過程で使用される場合があるということです。こうした材料は、薬液の容器、配管、ガスケット、フィルター、そして半導体製造装置のコーティングにごく一般的に使用されています。

フッ素樹脂の製造過程のどこかでPFOAが使用されると、フッ素樹脂コーティングされた完成部品(そして半導体製造装置全体)の中にそれが残留する可能性があります。

フッ素樹脂コーティング材料の製造で使用するPFOAの代替物質は存在します。しかし、装置サプライチェーン企業で、この代替が半導体製造装置の性能にどのような影響を及ぼすかを確認したのは、数社にすぎません。

装置のPFOA規制適合には、少なくとも次の2つのプロセスが必要となります:

半導体製造装置のコンポーネント、サブアセンブリ、パーツに組み入れられる全ての容器、配管、ガスケット、フィルターに残留するPFOA(およびフッ素テロマー)を特定します。そのために、装置メーカーは装置の構成部品に組み込まれたパーツをひとつひとつ(PFOAでコーティングしてあるかもしれないネジ1本にいたるまで)テストしなければなりません。さもなければ、部品サプライヤに、供給するコンポーネント、サブアセンブリ、パーツにPFOAが残留するかどうかの情報を請求する必要があります。部品サプライヤはさらに上流のサプライヤに連絡することになります。こうしてプロセスは拡大してゆき、何十万点もの部材についてテストが求められることになるでしょう。このためのコストは莫大なものになります。

PFOAが残留していることが見つかった場合、半導体製造装置のコンポーネント、サブアセンブリ、パーツに組み込まれた容器、配管、ガスケット、フィルター、コーティングを設計変更することになります。そのためには、装置メーカーはこの設計変更が、装置全体のウェーハプロセス性能にどのような影響を及ぼすかを理解する必要があります。また設計変更による再認定作業も必要となる可能性があります。こうしたプロセスにかかるコストは無視できないものでしょう。

上記の2つのプロセスには何年もの時間がかかることが予想され、そのためSEMIは適合までの猶予期間として10年を求めているのです。

規制文書の最終版にある5年間の猶予は、こうした複雑なサプライヤへの問合せ、設計変更、テストのプロセスを完了するためには不適当だと思われます。2つのプロセスは、2022年に欧州に上市される中古装置に至っては、さらに困難となるでしょう。このPFOA規制に対応した設計変更と認定は、中古装置にとって非現実的なものと言えるのではないでしょうか。

こうした懸念事項を検討するため、SEMIのEHSディビジョンは、昨年7月のSEMICON WestでSustainable Manufacturing Forumと題する情報共有イベントを開催しました。このフォーラムでは、「複雑なハイテク製品と入り組んだグローバルサプライチェーンにとっての政府規制への適合」をとりあげ、次の2つの重要なセッションでPFOA問題を検討しました。

政府/産業の対話についてのセッションで、ECHA幹部のレミー・ルフェーブル氏とSEMI欧州パブリックポリシー担当ディレクタがPFOA規制案の特徴的な要素を論じました。ルフェーブル氏は、SEMICON Westの会期中の他のイベントでもSEMI会員と意見を交換しています。

テクノロジーとデザインの課題についてのセッションでは、Chemours Company、富士フィルムエレクトロニクスマテリアルズ、Entegris、Intelのスタッフが、PFOA規制に対する業界の適合のアプローチと課題を論じました。

フォーラムの講演資料はダウンロード可能ですので、ぜひ目を通されることをお勧めします。PFOA規制に対する課題とアプローチを理解する絶好のスタートポイントとなります。

 

国連の国際的規制案

2016年9月に、国連は残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約に基づいた、PFOAおよびその関連物質の国際的規制を提案しました。規制案の詳細はこちらをご覧ください。

この条約の協議には地球上のほぼ全ての国が参加していますが、その全ての国が条約によって定められる規制で法的に拘束されるとは限りません。以下に規制が施行されるであろう国のリストをあげます:

アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、チリ、中国、EU、インド、インドネシア、日本、メキシコ、フィリピン、韓国、ロシア、シンガポール、タイ、ベトナム
(完全なリストはこちらから「entry into force」の項目をご覧ください)

現時点では、規制は米国、マレーシア、イスラエルには適用されません。また台湾の適合については複雑な状況ですので、個別にお問い合わせください。

次のいずれかの項目が当てはまる場合、その企業は規制の影響を受けると判断すべきです:

  • 上述のリストにある国で操業している
  • 上述のリストにある国に顧客がいる
  • 上述のリストにある国にサプライヤがある
  • 上述のリストにある国にサプライヤのサプライヤがある

現在の規制案では、ストックホルム条約はPFOAおよび関連テロマーを、上市される全ての民生および産業用製品について規制すると考えられます。これには半導体製造装置も含まれます。規制案は半導体製造のフォトリソグラフィでのPFOAの使用も制限します。こちらの理解では、最終規制案は2019年に投票に付され、制定は2020年になります。規制施行は上記の規制される各国で2020年に開始されます。

朗報としては、この規制案の改訂を求める時間がまだあるということです。しかし、改訂するには、SEMIと会員企業が、ストックホルム条約事務局ならびに各国を議論に引き入れる必要があります。SEMIは新たにこうした活動を担当する国際ワーキンググループを設置し、すでにストックホルム条約事務局へ短い意見書が提出されています。本活動にご興味がありましたらご連絡ください。

 

SEMIが業界のためにできること

上述の2つの適合プロセスに基づいて、業界が欧州規制案に適合するために5年間でしなければならないことは沢山あります。ストックホルム条約の規制案が改訂されることなく成立した場合、適合のための時間はさらに短くなります。

挑戦を受けて立つ心構えはできていますか? もちろんです。私たちにはイノベーションを起こす能力があります。しかし、力を合わせれば、適合にむけた作業はより効果的かつ効率的になります。業界全体の適合コストは、各社が個別に取り組んだ場合よりも低減することができるでしょう。

私は会員が主導するSustainable Manufacturing Equipment Program(持続可能な製造装置プログラム)の設置を提案します。この活動は、PFOA規制問題に取り組むばかりでなく、将来のGHG排出削減、省エネルギーなどの持続可能な製造のための課題も視野に入れたものです。もしご興味がありましたら、sbaliga@semi.org までご連絡ください。

(初出 SEMI Global Update 2017年1月31日号)