SEMI通信 2016年6月号 Report 1

半導体製造設備買収で生産能力強化を図る電子部品メーカー

 

日本の半導体業界では、近年、採算性の低いシステムLSI事業を中心に再編が進んでいます。大手IDMでは半導体事業を企業本体から切り離しての分社化や売却の例が多くなり、非中核事業や工場の売却、譲渡も相次ぎました。逆に、パワーデバイスや車載デバイスなど成長分野へは注力を進めています。

非中核事業や半導体工場の譲渡、売却先としては、従来は国内中堅半導体企業や海外半導体メーカーが中心でしたが、2010年代に入ると村田製作所、TDK、太陽誘電などの電子部品メーカーが注目されるようになってきました。

SAWデバイスの需要拡大への対応

日本の電子部品メーカーは、コンデンサ、抵抗などの受動部品分野を中心に、現在も世界市場を牽引する存在ですが、半導体と同様に、韓国、台湾、中国などの競合企業も伸びており、市場での競争が激しさを増しています。

このような状況において、国内電子部品メーカーが中長期の事業戦略において新たな成長ドライバとして力をいれているのが無線通信(RF)分野であり、同分野のキーデバイスであるSAWデバイス(SAWスイッチ、SAWデュプレクサ)です。

SAWデバイスは、携帯電話の台数増に加えて、高性能化・高速化に伴い1台あたりの搭載数が増加しており、需要が急速に高まっています。また、SAWデバイス自体にも高性能化が求められ、製造に要求されるプロセス技術が高度化しています。SAWデバイス生産に求められる質と量の拡張に応えるため、電子部品メーカーが注目したのが、旧型の半導体工場です。

SAWデバイスの製造プロセスは半導体と重なる部分が多いのですが、技術的にみると数世代遅れています。使用する基板サイズも200mm以下、150mm、125mmでも十分対応です。旧ラインで構成される半導体工場はこの要求を満たし、建屋・施設も既存のものが使用できるため、一部設備の入れ替えを行うことで迅速に立ち上げることができるわけです。素早い生産能力の拡大を目指す電子部品メーカーが積極的に取り込むようになったのは当然です。

部品単体からモジュールへビジネスモデルが変化

また、RF分野での電子部品、デバイスのビジネス構造自体の変化も、電子部品メーカーが半導体事業へ接近する動機となっています。

RF分野では単体の部品、デバイスの提供から、SAWデバイスやアンプ、アンテナスイッチなどをまとめたモジュールとして提供するモジュールビジネスが主流となってきています。モジュールビジネスでは他社製品も含めてモジュールとして組み上げるメーカーの影響力が大きくなります。電子部品メーカーではモジュールビジネスで実績を拡大するため、良質な部品の調達を目指して、他の部品メーカーとの提携、自社の部品の充実を図っています。キーデバイスを保有する半導体企業や事業部門を買収する案件も増加しています。

以下に、国内大手電子部品企業による、半導体関連の工場・事業・企業買収の例をまとめます。

村田製作所

大手電子部品メーカーの中でも、最も積極的にM&Aを進めているのが、村田製作所です。同社ではSAWデバイス、MEMSなどの個別製品の生産能力を強化するだけでなく、通信向け半導体メーカー、通信用パワーアンプ(PA)、コイルなどのコンポーネント企業などの買収も積極的に進めており、モジュールレベルでの対応力の強化を進めています。

2008年に富士フィルムからCCDイメージセンサの製造を行っていた仙台工場を買収、2008年度から高周波表面波(SAWフィルタ)の製造を行っています。生産品の転換に伴う改造費用、買収費用を含めて2010年度までに約100億円を投資しています。

また、2012年にはルネサスエレクトロニクスからPA事業を買収し、自社の電子部品とPAを組み合わせることで、携帯電話機向けフロントエンドモジュールの製品力を強化しました。

センサ事業では、MEMS分野の増強を図るため、2012年1月にはフィンランドのファブレス企業、VTI Semiconductorを買収しました。さらに2013年6月にはNECから携帯電話やノートパソコンの開閉検知などに使う磁気抵抗(MR)センサー事業を買収しました。これに伴い、同製品の製造を担当しているルネサスエレクトロニクスからは大月工場のセンサー機器製造ラインや同事業部門の従業員を譲り受けています。
2014年に、RF受信回路のキーデバイスであるRFスイッチの大手メーカー米Peregrine Semiconductorを約4億7000万米ドルで買収しましたが、これは村田製作所の買収においては過去最大規模となっていかす。同社の買収により、PA、RFスイッチ、SAWデバイス(デュプレクサ)といったアンテナ周辺回路の主要デバイスを一括して提供できるようになっています。

太陽誘電

太陽誘電は、2010年に富士通の子会社である富士通メディアデバイスの通信用デバイス事業、工場(長野県・須坂工場)を買収し、SAWフィルタ、SAWデュプレクサなどのRF通信関連デバイスを中核とする事業を展開しています。

その後、SAWフィルタなどの需要増に対応するため、2013年に日立製作所からマイクロデバイス事業部の青梅工場を買収しました。同工場は旧デバイス開発センターとして通信機器、コンピュータなどの情報通信分野に向けての半導体生産やファンドリサービスの提供を行っていましたが、日立製作所ではパワーデバイスなどを除いて半導体製造事業から撤退したことから、同工場も2013年に入ってからは閉鎖、売却先を探していました。

太陽誘電は同工場を買収後、2014年度下期から一部の製造装置などを入れ替え、新規装置の導入を進め、2015年第3四半期からSAWフィルタなどの通信用デバイスの製造を本格的に開始しています。これにより対象デバイスの製造能力は3倍以上にまで拡大されるものと見られます。

TDK

TDKも2015年後半から積極的なM&Aの動きを示しています。

2015年11月には、ルネサスエレクトロニクスとの間で、ルネサスの鶴岡工場の125mmウェーハラインを買収することで基本合意したと発表しました。TDKは同工場において、超小型の電子部品の生産能力の増強を図る考えです。

2015年12月には、ホール素子センサ、モータコントローラなどを中心に、自動車向け事業の有力メーカーであるスイスMicronas Semiconductor Holdings AGを買収することで合意しました。自社の磁気センサ事業と、Micronasのホール素子センサ技術や回路設計技術、パッケージング技術などを融合することにより、TDKのセンサ事業の強化を図ることを目指しています。

モバイル通信用途では、2016年にQualcommとの間で、2017年をめどにシンガポールで合弁会社「RF360 Holdings Singapore PTE. Ltd.」を設立することで合意しました。両社は、合弁会社設立に加え、センサや非接触給電といった主要技術領域で、技術協力を拡大していくことについても合意しています。

自社に周辺回路事業を取り込み、モジュール対応能力を強化している村田製作所に対して、TDKは「スマートフォン用RF部品事業では、単独での独自路線は厳しい」と判断し、Qualcommとの合弁会社を選択したものです。

京セラ

京セラは、他社が通信分野を中心に買収、合併、合弁などを進めているのに対して、パワー半導体の将来性を見込み、関連企業の買収を行いました。

具体的には、2015年9月に日本インターの株式70%(取得費用は106億円)を取得、子会社化をし、2016年5月には同年8月1日付で吸収合併することを発表しています。

自動車や産業機器向けダイオードに強みを持つ日本インターを子会社化、吸収合併することにより、京セラは半導体生産事業に参入しました。日本インターは、特にショットキーバリアダイオードにおいては、世界でも有数の実績を残しています。京セラは自動車や産業機器分野でダイオードの需要拡大を見込み、日本インターを買収し、京セラの海外販売網を使って日本インター製品の販売を強化するほか、京セラ製パッケージを組み合わせた製品を開発していくと考えられます。

 


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