SEMI通信 2013年3月号 記事3
2013 FlexTech報告
プリンテッドエレクトロニクスのフレキシブルな未来を詳細に検討
SEMI新興市場担当 ポーラ・ドー
プリンテッド/フレキシブルエレクトロニクス関係者が、その製品化に必要とされる材料およびプロセスのエコシステムの有望な進歩を発表し、このテクノロジをフルに活用するアプリケーションの次第に高まる実現性について語りました。短期的に最も有望視されるのは、堅牢な軽量ディスプレイ、スマートセンサシステム、医療用大型バイオセンサ/撮像装置です。
バリア膜からロール・ツー・ロールのインラインテストまで、あらゆる部分で技術向上が進んでいますから、今後数年で、プリンテッド/フレキシブルエレクトロニクスのこれまで以上に重要な製品応用が見られるようになるかもしれません。1月29日~2月1日にフェニックスで開催されたFlexTech Allianceの年次カンファレンスでの堅牢な軽量ディスプレイ、必要十分にスマートなセンサタグ、医療用センサの状況報告から判断して、サプライヤは他の方法では容易に作れない高価値アプリケーションを次第に目指すようになっています。
軽量で堅牢なディスプレイ
「この産業が現実のものになりつつあります」とPlastic Logic(英)のCEO インドロ・ムケルジー氏は発言しました。「私たちは科学プロジェクトから工業プロセスへと進み、パートナーと共にバリューチェーンを作り上げ、ビジネスが可能になったのです」。ムケルジー氏は、このフレキシブル・ディスプレイ企業を、電子書籍リーダーのメーカーから、自社のフレキシブルなバックプレーンモジュールを用いた電子ディスプレイを広範な新規ユーザーに供給する会社へと転換しました。新しいパートナーには、屋外表示機、時計、スマートカード、工業用表示機などのメーカー各社があります。彼は、同社のフレキシブルTFTバックプレーンの用途を、他のマーケットへも広げようと動いており、LCDメーカーに製造プロセスを変えるように強く働きかけています。「先端技術ビジネスでは臆病になってはだめです」と彼は言います。「Plastic Logicは突き進みます」。
主要産業での成長にはまだ時間がかかる
フレキシブルな透過型ディスプレイは、ディスプレイでは次の目玉となるでしょう。その本格的な成長は2015年以降になり、2020年までにはディスプレイ市場の19%を占めると、HISのディスプレイ調査・戦略担当シニアディレクタであるスウェタ・ダッシュ氏は予測します。彼女は、SausungとLGは、軽量化と堅牢化を目指して、年内にスマートフォンやタブレット用ディスプレイを割れない基板で製造することを、少なくてもある程度は計画しているとも言及しました。IDTechExシニアテクノロジーアナリストのハリー・ゼルボス氏は、大型OLEDディスプレイ市場がプリンテッドあるいはフレキシブルになるのは、2018年では1%しかないものの、10年以内に12~14%になると考えています。同じ技術が、OLED照明と有機太陽電池の両方にコスト面と性能面で貢献しますが、この2つのアプリケーションは、本格的な製品化にはまだ時間がかかるようです。IDTechExの予測では、5年後のOLED照明市場は約1億2千万ドルに到達し、フレキシブルな電池、ロジック、メモリ、太陽電池は、合計して5~6千万ドルの範囲となります。
多くのフレキシブル製品は、依然としてフレキシブルバリア膜の改良による長寿命化と、脆いITO薄膜に代わる新しい透明電極材料を必要としています。バリア膜はまだ問題があるようですが、進歩はしています。この分野で期待されているのが、低コストALD膜です。Beneq Oy(フィンランド)は、クロスフロー技術によるバッチプロセスの進歩について、3分間で第2世代基板サイズのシート35枚に50nm厚のAl2O3を成膜すると報告しました。これは、プリカーサーガスを時間でなく空間で区切れば、毎分数メートルをコーティングするロール・ツー・ロールシステムに拡大できます。25nm厚のAl2O3バリア膜の場合、10-4g/m2/日が最高の結果です。Vitriflex(米)のCEO・創業者 ラビ・プラサード氏は、同社の混合酸化物積層膜に、ポリマー膜に低コストのロール・ツー・ロールでスパッタリングした新しいトップシールを組み合わせると、業界が目標とする10-5g/m2/日よりも良い結果が独立研究所で測定されたと言います。Corning Inc.(米)の研究員シーン・ガーナ―氏は、ロール・ツー・ロール・プリンテッドエレクトロニクスの試作・研究設備で、50~100nm厚のフレキシブルガラスのロールに一般的材料を積層したところ、初期から良好な結果が得られたと報告しました。ITOの代替候補としては、ワイヤグリッドと恐らく銀ナノワイヤが有望と思われます。
コンポーネントとフレキシブルシステムの統合
ディスプレイ市場以外で、プリンテッド技術の応用を実現する特徴は、さまざまなコンポーネントを便利なシステムに効果的に統合する能力です。Thin Film Electronics(ノルウェー)と同社のパートナーは、スマートセンサタグをロール・ツー・ロール方式でプリントして大領生産しようとしています。プリンテッドエレクトロニクスで重要となる市場は、高い歩留りを必要とする大面積エレクトロニクスよりも、非常に大量数のシンプルなデバイスになると、Thin FilmのCEO ダボル・スーティヤ氏は主張します。
同社とそのパートナーは、約14億ドルの温度センサを狙っています。このタグ製品は、Thin Film社のメモリ、PARC(米)の有機ロジック、PST Sensor(南アフリカ)のプリンテッド温度計、Acreo(スウェーデン)のエレクトロクロミックディスプレイを組み合わせたものになるでしょう。現在あるコンセプト実証用デモデバイスの製品バージョンの開発は2014年が目標となっています。
傷みやすい貨物の荷送人は現在、温度で色が変化するシンプルなタグを使って、輸送中に温度が高すぎたり低すぎたりした場合の検出をしています。しかし、その情報は限定的で、また色は時間がたつと変わってしまいます。センサにメモリと500~1,000トランジスタのロジック回路を加えたシンプルなプリンテッドシステムをロール・ツー・ロールで大量生産すれば、現在のアラームタグやデータロガーよりも使いやすく正確な情報を、シリコンよりも低コストで記録・表示することができるのです。同じようなシンプルタグに少量の実用的な情報を記憶するスマートデバイスは、ほかにも動的なプライ表示、医薬品、物流などでも使用が考えられます。スーティヤ氏はスマートセンサタグの成長を楽観視しており、2014年に6億個市場に、そして2016年にはおよそ3億ドル相当の約20億個に達すると予測し、このボリュームになると、タグの単価は0.15ドル程度となることを示唆しました。
同社の定評あるメモリ技術は、強誘電ポリマーをトップ電極とボトム電極でサンドイッチする構造で、パルスがあると電荷が変化し、その状態を維持します。製造インフラの多くも自社開発がされ、これには、ウェブハンドリング装置をベースにした高速ロール・ツー・ロール方式の電気的テストシステムや、メモリを保護するためのUVコーティングと機械的応力を減らすために下に敷くフレキシブル層などがあります。
コンポーネントをフレキシブルシステムに統合する別のアプローチとして、シリコンチップをフレキシブル基板に貼り付ける方法があります。これは、チップがフレキシブルであれば容易となります。American Semiconductor(米)とTowerJazz(イスラエル)は、フレキシブルシリコン・オン・ポリマーCMOS製造のファウンドリプロセスの認定作業中です。TowerJazzでは、複数のデザインをひとつのマスクでプロセスすることで、開発のコストダウンと期間短縮が図られています。American SemicnductorのCEO ダグ・ハックラー氏は、初期のウェーハでは、フレキシブルウェーハのトランジスタに性能に変化は見られず、それどころか、SOIウェーハのハンドル層を除去すると、寄生容量が減少し、RFデバイスの性能が向上したと語りました。同社は現在、米国空軍研究所と形状適合型のスマートアンテナにフレキシブルチップを使用したシステムの開発を、またセキュリティカードのサプライヤASIと、フレキシブルスマートカードの開発を進めています。
フレキシブル医療デバイスのハイブリッドアプローチ
医療用アプリケーションでは、MRIコイルなど快適に身体に着用したり巻きつけたりできるフレキシビリティが要求されるデバイス、また、カテーテルや内視鏡、錠剤を通した体内データの収集で、シリコン品質のプロセスや通信機能を組み込むことが要求されるデバイスの研究がされています。FlexTechは、米国空軍研究所から500万ドルの助成金を得て、ナノバイオ製造コンソーシアムを設立することを発表しました。これにより、マイクロ流体デバイスをフレキシブル基板で製造する共通プラットフォームを開発するために、さまざまな関係企業が共同研究を行います。人の反応をモニタリングするための、ワイヤレス通信をハイブリッドエレクトロニクス製造に統合したウェアラブルセンサがその目的です。
MC10(米)のR&D担当副社長 ケビン・ダウリング氏は、同社の最初の製品となる衝撃モニタリングデバイスが発売されたと報告しました。これは、Reebokと共同開発・マーケティングしたもので、スポーツヘルメットの中に装着して、着用者が頭部に受けた強い衝撃を示すものです。同社はバルーンカテーテルにフレキシブルセンサを取り付けて、体内で膨らむ介入デバイスの試験もしています。これは例えば、心房細動を測ることでアブレーション治療が成功したかを調べたり、鼓動する心臓の電気的データを、ひとつあるいはふたつの電極で得られるよりも完全なマップで取り出したりするために利用できるでしょう。MC10のアプローチは、電子回路をプリントするのではなく、薄化したシリコンダイを頑丈なポリマーにフレキシブルワイヤで配線してフレキシブルシステムをつくるものです。チップは裏面エッチングをしてから切り離し、モールド構造に移されます。薄化したダイの搬送ツールは自社開発がされました。
MC10やその他の多くの研究者が、人のさまざまなバイタルサインを測定する、ハイブリッドシステムや完全なプリンテッドシステムを使用した肌用フレキシブルパッチなど皮膚に付着するユニットを開発しています。健康状態のモニタリングが目的で、多くの場合はデータをスマートフォンに転送して分析します。カリフォルニア大学バークレー校のアナ・アリアス氏は、赤色光および赤外線源・検出器を備えた指用フレキシブルセンサによる血液酸素化測定の良好な結果を示し、またMRIコイルをフレキシブル基板にプリントし、いろいろなサイズの人にも、身体のどの部位にも合わせて巻きつけられ、良好なイメージが短時間で得られたと報告しました。GE Global Research(米)が米国陸軍のために研究している医療モニタは、センサと信号処理回路はプリンテッドですが、高速通信にはシリコンを使用します。エレクトロニクスシステム技術者で研究責任者のジェフ・アッシュ氏は、シリコンダイをプリンテッドコンポーネントにいかにして効率よく組み込めるかが、大きな課題だったと言います。組立コストが、システムのトータルコストの半分近くを占めそうでした。解決策は、チップに磁性膜をプリントし、パターンをつけた磁気テンプレートを下に敷いたフィルム上に散布することでした。チップは求められる磁気がある場所にすぐにくっつきました。
最も製品化が進んだ結果を報告したのが、BodyMedia(米)です。同社はそのセンサパッチおよびアームバンドとモニタリングソフトウェアの用途を広げています。同社はセンサを試験的にフレキシブルパッチに入れ、またアームバンドにはフレキシブルワイヤが必要なものもありますが、システムのコアとなるのは、従来からあるMEMSなどのリジッドなセンサが入った腕時計のような形状のユニットによる活動量、脈拍、電気皮膚反応、さらには上腕での心電図計測です。米国の減量コンテストTV番組「The Biggest Loser」に出演した利用者による熱狂的な宣伝のおかげもあって、同社製品はこれまで減量むけに良い反響を得ています。しかし、CEOのアイボ・スティボーリク氏は、システムから得られる活動量とストレスの豊富な情報に、例えば血糖値、心臓データなど他のデータを組み合わせると、減量以外の病状の管理にも役立つと考えています。同社はこのセンサとソフトウェアを他のアプリケーションに適用するために専門性のあるパートナーを探しています。
シリコンか蒸着か? フレキシブル基板かリジッド基板か? プリンテッドかシリコンダイを組み込むか?
こうしたシステムはどれも、破壊的技術となりうるローコストプロセス、フレキシブル基板、有機材料と、より高い性能を提供する確率された真空プロセス、リジッド基板、シリコンデバイスとの間で、複雑なトレードオフを舵取りする必要があります。IDTechExのゼルボス氏は、「プリンテッドが主流」となるエレクトロニクス市場を200億ドル規模となるが、実際にフレキシブル基板で製造されるのは、この内の半分を少し超える程度しかないと予測しています。レーザリフトオフ技術の開発や薄化ウェーハによって、リジッド基板上での制御が容易なプロセスで、フレキシブル製品を製造できるようになるためです。
NOVALED(独)のCSO ヤン・ブロホビッツ・ニモス氏は、現在のOLEDディスプレイは全てリジット基板上に真空成膜をしているが、メーカー各社は時間とコストを削減するために最も厚く材料が高価なホール側の最初の層について、溶液プリンティングで形成しようとしており、将来的には徐々にプリンテッドとなる層を増やし、可能性としてはすべての層をリジット基板上にプリントすることも考えられるが、面積的にはフレキシブル基板にロール・ツー・ロール方式でプリントするほど大量になるとは考えられないと主張します。テレビ用の大型OLEDディスプレイに関しては、赤、緑、青の各OLED層をパターニングするための金属マスクは、8Gサイズの基板にまで拡大することが困難なため、インクジェットかノズルプリンティングへの変更が考えられます。しかし、このような大型基板への採用は大変更となるため、メーカー各社は、小型マスクのスキャニングといった蒸着プロセスや、レーザー熱転写法、さらに白色OLEDとカラーフィルタの利用も検討しています。一方でOLED照明は、量産時のコスト低減のために、ロール・ツー・ロール方式の真空成膜をするか、またはリジッド基板上にいくつかの層をプリントする可能性があります。ブロホビッツ・ニモス氏は、Aixtronの新しい装置によって低温でので成膜速度が改善されたため、OLED照明は溶液プロセスが不要になった可能性があるとも述べました。有機太陽電池では、その反対に、大きな面積を必要とするので、ロール・ツー・ロールしか考えられず、NOVALEDがパイロットテストを開始したような完全真空か、ホール側の層をプリンテッドにするかのいずれかとなるでしょう。
アリゾナ州立大学のデービッド・ミラー氏は、低コストのプリンテッドエレクトロニクスでも、実際は最も低コストなソリューションとはならない場合もあると主張します。ミラー氏の推定では、現在の少量R&D/試作ラインでのフレキシブル基板へのプリンティングの実際のコストは約$29/平方cmで、CMOSは約$7/平方cm、ディスプレイは約$0.05/平方cmとなりますが、もちろん、研究レベルのラインと量産プロセスのコストは、比較できるものではないでしょう。それでも、ダイが小さい場合は、普通にリジッドまたは薄化シリコンデバイスをフレキシブルシステムに組み込むことが、最善となるでしょう。中~大面積の場合は、プリンテッドTFTが圧倒的にシリコンより安価になりますから、大型ディスプレイや光学撮像デバイス、X線/放射線検出器といった大面積のアレイセンサではプリンテッドテクノロジーが有利になりそうです。強力な計算能力や高速通信は通常のCMOSチップを表面に組み込むことになります。
(初出 SEMI Global Update 2013年3月号)
