SEMI通信 2013年1月号 記事3
紛争フリー金スタンダードの紹介: エレクトロニクス産業向けガイド
World Gold Council リスポンシブル・ゴールド・プログラム担当ディレクタ Terry Heymann
金は、その特性によって、エレクトロニクス、医療、省エネ、環境科学などさまざまな技術分野において不可欠なものとなっています。厳しい経済情勢の中にあっても、こうした産業分野からの需要は旺盛で、2011年の需要は460トン以上、金額にして230億ドルを超えました。エレクトロニクス産業の需要は、この内3/4にあたる約330トンを占めます。半導体、車載および産業エレクトロニクス、無線機器は、いずれも2011年に金の需要が増加しています。
残念なことに、金の特性である「高い価値」と「可搬性」によって、金は内戦や反政府活動にかかわる非合法武装グループの資金源となる恐れがあります。新しく採掘される金のうち、武力紛争中の組織とのつながりで汚される量は極わずかですが、責任ある企業がこのような悪用された金属をサプライチェーンから排除するため、対策を講じることは大切です。エレクトロニクス産業の川下ユーザーにとって、社会活動家や消費者を安心させ、一方で新たな法律や規範となるスタンダードを遵守する上で、紛争にかかわる金属の排除が非常に重視されているのです。
コンゴ民主共和国の内線と反政府活動は15年間に及び、第2次世界大戦以降、最も多数の命を奪った紛争となっています。残念ながら、国連などの報告によると、紛争のひとつの要因は、コンゴの鉱物資源の違法開発を通じた武装グループの資金調達です。コンゴ産の錫、タンタル、タングステン(3T鉱物)と金は、このような資金源となっている恐れがあるため、2010年に成立した米国金融規制価格法(ドッド・フランク法)には、米国に上場している製造企業に対し、その製品に使用する上記4種のいわゆる「紛争鉱物」について、原産国の確認を求める条項が加えられました。紛争鉱物が中央アフリカ産であった場合、企業はそれが紛争資金源とは無関係であることを立証しなければなりません。立派な人道的動機によるものではあっても、このような対応方法では、該当地域で責任を持って産出された鉱物の事実上の禁輸措置につながることが懸念されます。川下のユーザーは、法的リスクとコンプライアンスコストの低減を目指しているからです。そのため、正当な採掘人による合法な小規模鉱山会社に不利益をもたらす残念な結果となりました。そして、人々が別の生計手段を自分と家族のために求める中、社会の緊張が高まる可能性があります。
ドッド・フランク法が成立する以前から、主要な金鉱山会社は、武装勢力の資金とならない責任のある金採掘を識別するためのプロセスを、業界主導で考案する作業をはじめていました。鉱山各社と精錬会社の3年近くの努力の結果、World Gold Councilは2012年10月に紛争フリー金スタンダードを発行しました。この開発は、5大陸にまたがる政府、国際協会、NGO、大学、そしてサプライチェーン企業による国際的協議と、現場でのストレステストによって行われました。これを導入することで、金の信頼を高め、コンゴで起こったような紛争の資金源とはなっていないことを納得した上で、川下企業に使用していただくために、大きな効果があるでしょう。
紛争フリー金スタンダードは、金鉱山会社が、不法な武装紛争の原因、支援、利益とはならない、また、深刻な人権侵害または国際人道法違反に加担しない方法で操業していることを立証し、保障するための枠組みです。このスタンダードは、経済協力開発機構(OECD)の「Due Diligence Guidance for Responsible Supply Chains of Minerals from Conflict-Affected and High-Risk Areas」、国連の「Guiding Principles on Business and Human Rights and the Voluntary Principles on Security and Human Rights」など、国際的に認められたベンチマークをベースにしています。企業が「紛争地域及び高リスク地域」と評価される地域で操業する場合、人権、警備会社の管理、政府への納付金の公表、地域貢献活動、内部通報制度、地域住民からの苦情窓口といった事項について、企業はどのように活動すべきか、どのようなシステムを構築すべきかを、このスタンダードは提示します。
このスタンダードを導入する企業には、外部の保証機関による厳格かつ独立した精査を受けた公的報告によって、適合状況を公表することが求められます。企業が開示する情報は、次のサプライチェーン企業(通常は精錬会社)、政府、市民グループを含め、幅広い関係者にとって有用となるでしょう。
次にスタンダードは、精錬会社のデューディリジェンスの重要な構成要素を提供し、精錬会社がさらに川下のユーザーに保障を提供できるようにしています。電子業界CSRアライアンス(EICC)とグローバル・eサステナビリティ・イニシアティブ(GeSI)が開発した「紛争フリー製錬所プログラム」を含め、金精錬会社のために多数の保証プロセスが開発されました。類似した業界主導のアプローチは、ロンドン地金市場協会、責任あるジュエリー協議会でも開発されていますが、EICC-GeSIとこれら2つの組織は、お互いのアプローチを認めることに合意しており、「監査疲労」や付随するビジネスコストの軽減が図られています。
OECDガイダンスと同様に、紛争フリー金スタンダードは、世界中の武力紛争に適用されます。このスタンダードは、OECDガイダンスを、金鉱山会社が「運用可能」なものにするために考案されたのです。一例として、どの国や地域を「紛争地域」あるいは「高リスク」と見なすべきかの判断があります。OECDガイダンスでは、このような地域を特定せず、また判断方法も提示せず、責任を企業に負わせています。紛争フリー金スタンダードは、その逆に、こうした判断をする企業を支援するアプローチを提示します。ある地域を「紛争地域」あるいは「高リスク」と見なすべきかの評価に際し、スタンダードは企業に、その地域に対し国際的な制裁措置がとられ、それによって金取引が妨げられていないか、また1次基準としてのハイデルベルグ国際紛争研究所の紛争バロメータなど、外部情報の利用が必要となっていないかを判定するよう求めます。
OECDガイダンスは、米国証券取引委員会からも、2012年8月に発行されたドッド・フランク法1502条施行規則において、金の原産地に関して企業が実施するデューディリジェンスの枠組みとして認定されています。しかし、OECDの国際的アプローチとは異なり、米国法規はコンゴ民主共和国とその周辺9ヶ国だけを対象とします。もうひとつの相違点は、ドッド・フランク法が個々の金属の出所証明を求めるのに対し、金属サプライチェーンの複雑性を踏まえて、OECDガイダンスと関連業界スキームは、企業に信頼できる「デューディリジェンス」プロセスを備えていることを示すよう求めています。
金の不正利用の可能性との闘いにおいては、紛争の恐れのある地域で武装紛争に協力することなく操業する合法的生産者が、国際市場から締め出されないようにすることが重要です。その国に烙印を押し、何千人もの住民から合法的な生計手段を奪い去っても、平和と安定は訪れません。World Gold Councilと多くの主要エレクトロニクス企業が、米国政府が主導する「アフリカ大湖地域における責任ある鉱物取引のための官民連携」を通じて協力しているのは、このためです。コンゴの金鉱山は正式な会社組織ではない比較的小規模なところがほとんどです。現状では彼らに、「紛争フリー」であることを証明するための書類作成や外部チェックを求めることは困難です。しかし、このプロジェクトによって、コンゴの小規模鉱山の活動の形式を次第に整えて、こうしたハードルもクリアできるように支援がなされるでしょう。
東コンゴの状況が再び悪化するにつれ、紛争フリー金スタンダードのようなイニシアチブの必要性は、かつてないほど高まっています。金の生産者もエンドユーザーも、その製品がこの地の暴力や人権侵害に係ることなど望んでいません。また、それ以外の世界のどこにおいても同じことです。
紛争フリー金スタンダードは、画期的な成果となります。多方面から重要な意見を取り入れながらも民間で開発した、武力紛争が及ぶ地域で操業する企業のための実施基準を提供する最初のイニシアチブなのです。責任をもって操業されれば、鉱山業は多くの新興市場における経済および社会発展に、大きく貢献します。責任ある金鉱山業は、こうした国や社会に新たな機会を創出し、そしてこの発展の支援には、エレクトロニクス産業からの需要が重要な役割を担うのです。
詳しい情報
紛争フリー金スタンダード(Conflict-Free Gold Standard)の文書は、World Gold CouncilのWEBサイトで提供しています。このスタンダードに対する、政府、業界、市民社会の見解のビデオもご覧いただけます。
電子業界CSRアライアンス(EICC)- 電子機器業界のサプライチェーン企業が協力して効率と社会・倫理・環境責任を国際的サプライチェーンで推進するための連合 - の詳細いついては、こちらをクリックしてください。
(初出 SEMI Global Update 2013年1月号)
