SEMI通信 2012年8月号 記事1
2012年以降の太陽光発電製造産業を展望する: すばらしい新世界*
GTM Research シャム・メータ
本稿はGTM Researchが最近発行したレポート「PV Technology, Production and Cost: 2012-2016 Outlook」の前書きから抜粋したものです。詳細は、こちらのリンクをご覧ください。
* 訳注:「すばらしい新世界(Brave New World)」は、オルダス・ハクスリー(英)が1932年に発表した反ユートピア小説のタイトル。
このレポートの2009年版は「The Anatomy of Shakeout(業界不振の構造)」というタイトルで、何年も産業の成長を押さえつけていたポリシリコン不足が急速に緩和していった、見通しのつかない時期に執筆されました。そのひとつの原因は、今も続く経済危機であり、それによって世界中の太陽光発電設置が、資金調達にいきづまって急速に落ち込みました。太陽光発電産業が新しい時代に入りつつあることをレポートは予測しました。構造的な供給過剰と度重なる企業整理統合、その中から回復をすることは困難だと考えられました。
その予測は全くの誤りでした。それどころか、産業は2009年半ばに大きく立ち直り、2010年は記憶している限り最も素晴らしい成功の年となったのです。設置増加率はうなぎのぼりで、サプライチェーンは安定し、利幅も素晴らしものでした。私たちは、気前のよいフィードイン・タリフ制度が備わった市場がどれだけ巨大な需要を持つか、主にドイツとイタリアですが、正しく理解できていませんでした。2010年には20 GW以上のシステムが設置されました(ただし、17.5 GW程度しかグリッドに接続しませんでした)が、その年中頃のアナリストの予測の平均値は12 GWでした。私たちのIRR(内部収益率)モデルが少しずれていたか、中国企業がどれだけ製造コストを下げられるかを甘く見ていたのかもしれません。私たちは「資金調達可能性(bankability)」というものを充分理解できていませんでした。そして、私たちは、価格、刺激策、金融、需要の関係について、実のところ半定量的にさえ正確な理解ができていなかったのです。
さて、3年の月日が経過し、私たちは再び見覚えのある状況にあるようです。同じような終りが見えない需給ギャップ。産業の価格水準は、ほとんどが採算ぎりぎりかそれ以下。そして以前の世界的に締め付けられていた金融に代わって、今度はこれまでの重要市場において急速かつ不可逆的にフィードイン・タリフ制度が消滅しています。今回だけは、業界不振は本物のように思われるのです。四半期ごとに積み重なる損失、増え続ける破産や工場閉鎖のリスト、危険なほど脆弱なバランスシート、見えない終り。これが長い間予測されてきた業界不振なのでしょうか。補助金に依存したまま急成長をしてきた産業が避けられない矯正なのでしょうか。もしそうであるなら、その先に現れる市場勢力図はどのようなものでしょうか。あるいは、2008年のときのように、私たちは再び間違っているのでしょうか。
図1: 太陽光発電生産能力と設置量の推移(2007~2016年推定)

すばらしい新世界
実のところ、私たちの太陽光発電市場に対する理解は、2008年当時からさほど進展しているとは言えません。しかし、何が作用するかは正確に理解できていないにしても、何が作用しないかはかなり理解できています。結晶シリコン技術のさらなるコストダウンの可能性を軽視するつもりはありません。業界の資本力のある企業には、コストダウンに向けた勢いがあり、今後5年間にモジュール効率17%で$0.5/Wという目標達成に向けて後押しするため、技術革新が息をのむようなスピードでおこるでしょう。制度の終わりと共に沈静化に向かっているFIT市場からの利益を軽視するつもりもありません-特にシステム・コストが$2.00/Wに急速に迫っている時代においては。また、価格と需要の関係についても、弾力性という点では単純ではないと考えています。顧客はこの先装置価格がもっと下がると踏めば、数か月購入を控えるのをいとわないでしょうし、その逆に数週間で買取価格が大幅に下がるとすれば、何GWもの太陽光発電をそれまでに設置するでしょう。このため、今後も需要のピークが短期的に可能な供給量を上回ることはあるでしょう。この短期的な上げ潮は、すべてとは言えなくても多くの船が岸に打ち寄せる前に、浮力をあたえることになるでしょう。
図2: モジュールコストの推移(規模の利益、垂直統合ファブ、中国を含む。2009年第4四半期~2016年第4四半期推定)

以上のことはあっても、太陽光発電産業で進む整理統合はすぐには治まらないだろうという大多数の見解に変わりはありません。2012年から2014年までの間は、ほとんどのメーカーにとっては、いくつかの時期的また特定企業の例外はあるにせよ、極めて厳しいものとなるでしょう。これは基本的に、現状のバリュー・チェーンに存在する巨大な生産能力と、これまでフィードイン・タリフ制度の導入で活況であった西ヨーロッパ市場が徐々に減速していることが原因です。私たちは太陽光発電市場の歴史の転換点にあります。補助金という補助輪が取り外され、これからの数年間、太陽光発電産業ははじめて、手助けなしで自転車をこぐための努力をしなければなりません。
図3: 世界の太陽光発電設置量推移(2007年~2016年推定)

痛みはいつまで続くのか
私たちが今回は整理統合についてある程度自信を持っているのには、もうひとつの理由があります。簡潔にいうなら、補助金が急速に消えていき、需要の創出がますます困難になる中で、ほとんどの太陽光発電メーカーが十分に力のある価値提案をできていないということです。現在のこの産業にある企業のほとんどは、この素晴らしい新世界に居場所がありません。各社が競争力を向上させるためにできることは、あまりありません。少なくとも次の数回のラウンドのサイコロは、かなり前に振られているのです。
この痛みはいつまで続くのでしょうか。整理統合はどのようなものになるのでしょうか。最初の質問に対する答えは、当然ながら、問題となる企業の詳細、つまり、ビジネス・モデル、テクノロジー・モデル、バリュー・チェーンにおけるポジションと競争力に決定的に依存します。コストだけを見るとしても、次の図に示すように、企業間で今後5年間の利益率は大きく異なります。競争力のある企業ほど、ビジネス・サイクルの現在のフェーズの収束は早まるでしょう。リーディング企業については、早くも2012年末には10%台後半に達する可能性があると私たちは見ています。さほど競争力が高くない企業のバランスシートは、2012年から2013年の間、厳しくテストされることになります。しかし、これを生き延びた企業は、現在よりも安定し強固となった世界で、その利益を享受することができるでしょう。
図4: 企業粗利益推移(2009年第4四半期~2016年第4四半期推定)

対極的に、収益性を二度と回復できない企業もあるでしょう。少なくとも純粋な太陽光発電メーカーとしては。こうした企業はこの先、鏡に映る姿をじっくりと見つめ、この産業における自分たちの役割について難しい決断をくだす必要があるでしょう。潔く撤退するのか、あるいは、供給過剰となっている「ドングリの背比べ」市場で、なにも優位性がなくてもメーカーとして果敢に戦いつづけるのか、あるいは、失敗に終わる危険を十分に承知の上で、ビジネス・モデル、テクノロジー・モデル、製品モデルについて思い切ってやってみるか、という選択です。リソースに余裕のある限られた企業は、この方向転換を検討することができますが、残る企業は、需要の落ち込みと在庫水準の上昇が不可避的に衝突し、バランスシートが弱体化するたびに押し寄せる整理統合の波に、押し流されることを避けられないでしょう。
図5: 太陽光発電の操業工場数推移(インゴット~モジュール。2007年~2016年推定)

変容する産業を描き出す
整理統合が長期的な傾向になるかもしれない仮定すると、それはどのようなものになるのでしょう。整理統合は一挙に進み、2年間のうちに業界は1ダースほどの企業数に減ってしまうのでしょうか。あるいは進行はもっとゆっくりで、出入りはそれぞれ継続し、離脱する企業数が安定的に多いのでしょうか。どの企業が脱落し、それはいつなのでしょうか。そして、バリュー・チェーンの力学(垂直統合 vs 特化)、テクノロジーやビジネス・モデルの状況の転換点となるのは何なのでしょうか。
このような質問に答えるためには、細分性と包括性をかねそなえた分析フレームワークが必要です。細分性は、競争力の詳細な評価基準をトラッキングするという意味で必要です。これによって、例えば、China Sunergyの2012年のウェーハコストは市場価格を超えているが、Yingliのコストはこれを超えることはないと言うことができるのです。包括性は主要企業の競争力をドライブする評価基準の全体像理解を意味し、またその長期的な進化を見守ります。例えば、Renesolaのウェーハ加工費は業界最小クラスですが、しかし今期マイナスとなりそうな脆弱なキャッシュ・フローをてこ入れするための追加資金調達ができなければ、それもほとんど意味がありません。同様に、Talesunの2012年のモジュールコストとは無関係に、同社の米国進出の見込みは、同社の資金調達可能性の低さゆえに依然として限られています。この幅と深さの組み合わせがあってはじめて、競争力景観の進化について洞察力のある結論を導きだせるのです。そのスナップショットを次に図示します。
図6: 効率/業績によって調整したモジュール供給(2013年第4四半期推定)

図7: 太陽光発電製造における競争力学の進化(2012年推定~2016年推定)

予期せぬことへの期待
結局のところ、私たちは2009年から2010年の亡霊を振るい落とせずにいます。業界の力学に対する見解は、受給バランスそして需要にたいする自分たちの予測にきわめて依存しており、太陽光発電市場の非常に高い変動性は、最もよく考えられた需要予測をも台無しにしてしまうのです。例えば、ドイツとイタリアの市場は最終的には崩壊しますが、その最後の輝きが、2012年末か2013年にないと誰が言いきれるでしょうか。それによって、競争力の低いいくつかのメーカーに浮力が生じ、価格が安定するかもしれないのです。
本稿は、GTM Researchから許可をえて転載したものです。また日本語訳は抄訳です。オリジナルの記事はこちらを参照ください:
http://www.greentechmedia.com/articles/read/the-global-pv-manufacturing-landscape-in-2012-and-beyond-a-brave-new-world/
(初出 The Grid 2012年7月号 抄訳)
