SEMI通信 2012年1月号 記事1
2012年以降の前工程ファブ投資および生産能力を分析する
SEMI市場調査統計部門 クリスチャン・ディーゼルドルフ
世界経済そして半導体産業は、消費者の心理や景気信頼感に大きく左右されるようになりました。半導体デバイスメーカー各社は、ファブへの投資を収益予測に基づいて判断しますが、それも消費者次第ということになります。不安定な景気と政治状況は消費者の信頼感に影響し、それが収益予測へと及ぶのです。さらに、消費者信頼感の高低に係わらず、自然災害がサプライチェーンを滞らせる可能性があり、消費財の価格や供給に影響することも考えられます。
経済および政治状況の消費者信頼感への影響
住宅ローン危機は2012年まで尾を引いています。欧州の債務危機は2012年に悪化するかもしれません。欧州中央銀行は昨年12月19日に、翌年が危険な年であることを警告しました。世界経済の相互依存性は、こうした欧州における状況に世界の株式市場が敏感に反応したことからも明らかです。これに加えて、ブレント原油の2011年平均価格が過去最高の1バレル当たり111ドルに達するとのアナリストの予測があります。12月中旬にウィーンで開かれたOPEC石油相会合では、産油量を1日当たり3千万バレルの現状の水準に維持することが合意されており、原油価格は高値で推移する模様です。また、労働統計局によると、米国における失業率は、2009年平均が9.2%でしたが、2年後の2011年になっても改善が見られません(2011年11月末の失業率は8.99%)。世界的に失業率は高水準にあります。2012年には、米国、中国、ロシア、フランス、インド、メキシコ、フィンランドなど多くの国で選挙が予定されています。
自然災害
日本の震災と津波、そしてタイの洪水によって半導体産業は影響を受けました。タイは世界のハードディスクの約半数を生産しており、洪水によるハードディスクの供給不足は、想定外の大きな打撃をいくつかの産業分野に及ぼしました。12月に販売されるコンピュータの大半は洪水の前に生産されていましたので、影響の全体が姿を見せるのは2012年第1四半期になるでしょう。インテルをはじめ、いくつかの企業は、すでにハードディスクの供給不足を理由に2011年第4四半期の収益を低下を予告しています。ハードディスクの代替としては高価ですがSSD(フラッシュメモリの半導体ドライブ)があります。しかし、SSDの短納期の受注だけでは、NANDフラッシュ市場の復活には不十分です。
不透明な経済見通しがファブ投資に及ぼす影響
一般的に、半導体産業の売上と設備投資は、毎年の第1四半期に季節的な減少を示します。現在の経済見通しの不透明性が消費者に及ぼす影響を考えると、ファブ装置への投資額は2012年に11%程度減少することが見込まれます。
ファブ装置投資額の四半期毎の前期比成長率を、2007~2009年と2010~2012年で比較した結果を図1に示します。
図1: ファブ装置投資額成長率推移(四半期)の比較

2009年と2012年の前半はどちらも同様な下降を示した後に、後半は上昇に転じています。ただし、2012年の変化は下降も上昇も2009年ほど激しくはありません。
この類似性は、ファブ装置投資の金額推移を比較するとより明白です。図2に示します。
図2: ファブ装置投資額推移(四半期)の比較

ファブ装置への支出は、2012年の前半に減少しますが、後半には増加に転じ、第4四半期には100億ドルに到達するでしょう。
2012年のファブ装置投資額は過去10年間で3番目の高額
2012年を通しての投資額は11%減少となることが予測されます。しかし前年の2011年のファブ装置投資額が非常に高かったため、2012年がマイナス成長であっても、350億ドルと過去10年間で3番目の投資額が見込まれています。
図3: ファブ装置投資額の年間推移

SEMIのファブ投資の過去データを見ると、2011年が約390億ドルで最も高く、2007年が380億ドルでこれに続き、2012年の350億ドルは第3位になるはずです。今回の減少のシナリオでは、2010年の投資額を2億ドル上回る結果となりました。
地域的には、韓国だけが2012年にファブ装置投資額がプラス成長を示すでしょう。主な要因はSamsungによる投資です(表1参照)。
表1: 地域別ファブ装置投資額

出典: SEMI World Fab Forecast 2011年11月版
SamsungとHynixがワイルドカード
2012年のファブ装置投資額について約11%のマイナス成長予測をしていますが、これは大手デバイスメーカーの投資動向によって大きく左右されます。2012年の投資計画については、GlobalFoundriesなど数社を除くほとんどの企業が、公表をしていません。Samsung、Hynix、もしかするとこれに加えてIntelとTSMCがワイルドカードとなりそうです。もし、これら各社の投資計画が予測を上回る場合、2012年のファブ投資額は改善され、年間の減少率も4%程度になると分析しています。
Samsungは2011年より大きな投資を2012年にすることが予測されます。他社が投資を縮小するときに投資を増額する同社特有の投資履歴に当てはまる傾向です。これは、iPad、iPhneなどのモバイル機器向けの需要増に対応するものです。Samsungはまた、これまで以上にシステムLSI/ファウンドリビジネスに投資の比重を置いています。SamsungのシステムLSIおよびファウンドリビジネスの生産能力は2012年に30%以上拡大すると思われ、その結果、月産ウェーハ枚数は、2011年の53万枚(200mm換算)から2012年末には70万枚まで増加する見込みです。メモリの生産能力は2012年に約10%拡大すると予測されます。同社は新しいメガファブを中国に建設することも発表しており、着工は2012年第2四半期ではないかと思われます。その場合、ファブ装置への投資は2013年中頃になるでしょう。
Hynixについては、当初、投資額が前年比10~15%減少するとの予測でしたが、実際には最大18%の投資増があるかもしれないとの期待が現在されています。主な投資目的はNAND生産の増強です。2011年11月末に、SK TelecomはHynixの株式の21.1%を約30億ドルで取得することに合意しました(実施時期は2012年第1四半期)。これによりHynixは生産を増やしシェアを拡大する資金を得ることになります。
Intelの2011年第4四半期の収益は、ハードディスクの供給不足により予測を下回りましたが、それでも137億ドルという目を見張る金額です。過去数年の動きを見ると、Intelは市況に対応して、2008年に52億ドルであった設備投資を2009年に45億ドルまで減額しています。その後2010年には設備投資額は52億ドルへと上昇に転じ、2011年には過去最高額の102億ドルを投資しました。この投資の大半は、既存のファブのアップグレードに使われています。Intelの2010年、2011年の利益は驚異的ですから、2012年に減速したとしても問題ないでしょう。同社は22nmプロセスによるトライゲート・トランジスタ製造ファブの量産立ち上げを進めており、2014年をターゲットに14nmの生産も計画しています。Intelは450mm化対応可能のファブの建設を始めています(D1X (D1E)およびFab 42)が、450mm装置への大型投資は2012~2013年には予測されていません。2012年の設備投資が2011年を下回ることも考えられますが、それでも非常に大きな投資額となります。Intelは次の四半期発表を1月19日に予定しており、そこで2012年の設備投資計画が明らかにされるでしょう。
TSMCは2011年に設備投資を大幅に拡大し、過去最高の73億ドルを支出しました。同社はFab 15の第3期工事に着工しており、さらに昨年12月中旬に台湾に次世代最先端ファブ建設用地を購入しています。2012年の設備投資は、第2四半期を中心に削減される見通しです。TSMCもまた450mmファブ計画を積極的に推進していますが、2013年以降までは、大きなファブ装置への投資はないと見ています。
図4: システムLSIへの投資がDRAMを上回る

DRAMの平均販売価格が急落した結果、DRAMメーカー各社は2011年の設備投資を削減しました。生産能力が縮小したことにより、供給量のコントロールが改善され、スポット価格も安定を見せています。しかし、DRAMメーカーは最先端技術へのアップグレードを継続する必要があり、2012年後半に投資が始まると予測しています。NAND市場も供給過剰の模様です。SSD向けの受注がNANDの契約価格上昇に結びつくことが期待されましたが、それには不十分な受注量でした。しかし、フラッシュ製造ファブの投資は、2012年第2四半期こそ若干の減少が予測されますが、安定して継続すると予測しています。
旺盛な設備投資の1年が終ると、ファウンドリも支出削減を始めました。これは2011年の後半から2012年前半まで継続すると予測しています。投資の回復は、システムLSIがDRAMを初めて上回っていますが、これは主にSamsungの投資に負うものです。2012年のシステムLSI分野の前工程ファブ装置支出額は、50~60億ドルの範囲になると予測しています。
生産能力に投資する企業はどこか?
SEMIのWorld Fab Forecastレポートは、ファブ毎に生産能力を追跡し、ファブの閉鎖や製品タイプ、ウェーハサイズ変更による変化を反映します。
現在の経済状況にも係わらず、300mmの生産能力は2012年も安定した成長を続けることが予測されています。2011年の成長率は前年比約13%でしたが、2012年は僅かに減速し11%程度となる見込みです。2013年には12~14%程度まで上昇するでしょう。
図5: ウェーハサイズ別生産能力(成長率推移)

図6: フラッシュの生産能力がDRAMを追い越す

2012年末までの前年比成長率が最も高いのはシステムLSIで、約19%を予測しています。これにより2013年はシステムLSIがアナログの生産能力を追い越すでしょう。システムLSIの生産能力拡大をけん引しているのはSamsungです。次に成長率が高いのはフラッシュで、2012年は約14%増加し、3番目にはファウンドリの8%強が続きます。ディスクリート/パワーは6%近い4番目の増加率で、STMicroelectronicsが最大の貢献をし、Infineonがそれに次ぐ貢献をします。DRAMの生産能力は3~4%程度の成長が2012年に見込まれます。今のところDRAMの生産能力はフラッシュを上回っていますが、2012年中頃に初めて逆転が見られるでしょう。DRAM製造ファブの設備投資のほとんどがテクノロジー・アップグレードですが、NANDの設備投資はアップグレードと生産能力拡大の両方に使われています。
まとめ: 2012年後半はバラ色
3年前と比較すると、2011年からの3年間の設備投資と生産能力増加率ははるかに高水準です。2012年前半の落ち込みの後、2012年中頃からは設備投資は回復をするはずです。春になり気候が暖かくなると、建設などさまざまな経済活動が活発になります。米国などの国々で選挙活動をする政治家たちは、よりよい未来を約束し、消費者の景気信頼感も改善するかもしれません。2012年後半に全てが再びバラ色に染まる可能性はあるのです。
世界に広がるSEMIの市場交差統計チーム
2011年11月に前回ファブデータベースレポートを発行して以来、世界各地のSEMIのアナリストは、210以上のファブについて、300回以上のデータ更新をしています。15の新しいファブがデータベースに登録されましたが、その内の9はLEDファブでした。2011年11月20日に発行された最新のWorld Fab Forecastレポートには、1,100以上のファブが登録されており、その内の65以上のファブが来年以降の量産開始を予定しているものです。
SEMI World Fab Forecastは、ボトムアップのアプローチをとり、ハイレベルのレポート要約とグラフ、そして、各ファブの設備投資、生産能力、テクノロジー、製品の詳細分析を提供します。さらに、18か月先までの四半期毎の予測も提供します。レポートが提供するこうしたデータは、半導体製造の2011~2013年を見通し、また建屋や装置の設備投資を掌握するためにも有益です。詳細については、次のWebページをご覧ください:
・ http://www.semi.org/MarketInfo/FabDatabase
・ http://www.youtube.com/user/SEMImktstats
尚、SEMIの半導体製造装置世界統計(WWSEMS)は、装置メーカーから報告される新品の装置に関するデータを集計したものです。ファブが購入する中古や内製を含むあらゆる装置を対象とするWorld Fab Forecastとは、数値が異なりますのでご注意ください。
(初出 SEMI Global Update 2012年1月号)
